Global EV Outlookは、世界の電気自動車の最近の動向を特定・議論するための年次刊行物である。電気自動車イニシアティブ(EVI)※のメンバーの支援を受けて作成されている。
本報告書では、過去の分析と2030年までの予測を組み合わせ、電気自動車や充電インフラの導入、バッテリー需要、電力消費、石油代替、温室効果ガス排出、関連する政策展開などの主要分野について考察している。また、電気自動車普及のための政策枠組みや市場制度について、政策立案者や関係者に情報提供するため、主要市場から得られた教訓の分析も含まれている。
今回は、EV関連企業の財務状況、EV関連技術へのベンチャーキャピタル投資、EVの貿易に関する分析を記載した。最後に、世界のEV統計や予測、政策施策などを双方向で探せるオンラインツール「Global EV Data Explorer」「Global EV Policy Explorer」を公開している。
本報告書は、2023年末に開催される次回の国連気候変動会議COP28に向けて最終決着されるパリ協定の最初の実績評価をIEAが支援する一環である。このシリーズの他のレポートは、IEAの「Global Energy Transitions Stocktake」のページを参照。
※ EVI : Electric Vehicles Initiative
EVIは、世界中で電気自動車の普及を加速させることが目的。世界の主要経済国のエネルギー大臣によるハイレベル対話である「クリーンエネルギー大臣会」(G20エネルギー大臣会合)の下で2010年に設立。電気自動車に関連する政策課題の理解、各国政府の課題取組支援、知識共有のためのプラットフォームとして機能。
Executive summary.................................................................... 8 ←翻訳
Electric Vehicles Initiative...........................................................13
Trends and developments in EV markets......................................14
Electric light-duty vehicles..........................................................14
Electric heavy-duty vehicles........................................................38
Charging infrastructure .............................................................43
Batteries..................................................................................55
Policy developments and corporate strategy .................................63
Overview..................................................................................63
Policy to develop EV supply chains ..............................................66
Policy support for electric light-duty vehicles ................................72
Policy support for electric heavy-duty vehicles ..............................81
Policy support for EV charging infrastructure.................................83
A multiplying number of international initiatives and pledges...........86
Electrification plans by original equipment manufacturers (OEMs)....89
Global spending on electric cars continues to increase ...................93
Finance, venture capital and trade...............................................95
Prospects for electric vehicle deployment....................................107
Outlook for electric mobility.......................................................107
Battery demand ......................................................................121
Charging infrastructure ............................................................123
Impact on energy demand and emissions ..................................129
General annex.........................................................................137
〇 本報告書作成にあたっての日本側の関係者 (参考)
・IEA本部関係執筆者 Takashi Nomura
・IEA本部関係助言者 Keisuke Sadamori, IEA’s Director for Energy Markets
and Security
・資金援助:EVIメンバー(Canada, Chile, China, Finland, Germany, India,
Japan, the Netherlands, New Zealand, Norway,
Poland, Sweden, United Kingdom and the United
States.)
・情報提供 Nishi Hidetaka and Taiki Watanabe (Ministry of
Economy, Trade and Industry
・査読者 Koichiro Aikawa (Honda); Takafumi Anegawa
(TEPCO)、Tomoko Blech (CHAdeMO)
Hiroyuki Fukui, Marie Ishikawa and Hidenori Moriya
(Toyota)
Nishi Hidetaka and Taiki Watanabe (Ministry of
Economy, Trade and Industry)
Hiroyuki Kaneko (Nissan Motor Co., Ltd)
【訳者注】 重要と思われる部分にはアンダーラインを付した。
2022年の電気自動車販売台数は1,000万台を超え、指数関数的な成長を遂げている。2022年に販売されたすべての新車の14%が電気自動車であり、2020年の5%未満、2021年の約9%から増加した。三つの市場が世界の主たるマーケットであった。中国は再び市場をリードしており、世界の電気自動車販売の約60%を占めている。現在、世界中の道路を走行する電気自動車の半分以上が中国に存在し、中国はすでに2022年の新エネルギー車の販売目標を超えている。ヨーロッパは二番目に大きな市場であり、2022年の電気自動車販売台数は15%以上増加した。これは、販売台数の5台に1台以上が電気自動車であったことを意味する。3番目に大きな市場である米国での電気自動車の販売は、2022年に55%増加し、販売シェアは8%に達した。
電気自動車の販売台数は、2023年を通して好調を維持すると予想されている。第1四半期には230万台以上の電気自動車が販売され、前年同期比で約25%増となった。現在のところ、今年後半から新規購入が加速し、2023年末には前年同期比35%増の1,400万台の販売を見込んでいる。その結果、電気自動車は暦年で自動車販売台数の18%を占めるようになる可能性がある。国の政策やインセンティブが販売を後押しする一方、昨年のような異例の原油高に戻れば、購入希望者の意欲をさらにかき立てることになるであろう。
新興のEV市場は、マーケットは小さいが、有望な兆しが見えている。電気自動車の販売台数は、一般的には主要マーケット以外では少ないが、2022年はインド、タイ、インドネシアで成長の年となった。これらの国の電気自動車の販売台数を合計すると、2021年に比べて3倍以上に増え、80,000台に達した。タイの場合、2022年の総販売台数に占める電気自動車のシェアは3%を少し超える程度で、インドとインドネシアは昨年平均で1.5%程度だった。インドでは、政府の32億米ドルのインセンティブプログラムに支えられ、合計83億米ドルの投資が集まり、EVや部品の製造が活発化している。また、タイとインドネシアは政策的な支援策を強化しており、EVの普及を目指す他の新興国にとって貴重な経験となる可能性がある。
主要な自動車マーケットにおける市場動向と政策努力が、電気自動車販売の明るい見通しを支えている。IEAの公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario:STEPS※)では、既存の政策と確実な目標に基づく電気自動車販売のシェアが、前回の見通しの25%未満から、2030年には35%に増加すると世界的に予測されている。予測では、STEPSでは中国が2030年に販売台数の40%を占め、電気自動車の最大市場としての地位を維持する。米国は、最近の政策発表が需要を後押しし、10年後までに市場シェアを20%に倍増させ、欧州は現在の25%のシェアを維持する。
※訳者注
IEAの「World Energy Outlook」では、以下の三つのシナリオに基づいた分析を行っている。シナリオ分析とは、行動を起こすこと/起こさないことによって生じる可能性がある、それぞれの未来の姿を分析しているもの。IEAは、このシナリオ分析は「これから起きることを予測しているものではない」としている。
(1)現行政策シナリオ(Current Policies Scenario):世界各国が今の政策を何も変更せずに、現在の道をそのまま歩み続けた場合にどうなるかを示したシナリオ
(2)公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario):世界で公表されている政策イニシアティブなど、各国政府の現在の計画を組み込んだシナリオ) IEAは、3種類のシナリオのうち、このシナリオを中心シナリオ(Central Position)と位置づけている。
(3)持続可能な開発シナリオ(Sustainable Development Scenario):「パリ協定」で定められた目標を完全に達成するためには、どのような道筋をたどることになるかを分析したシナリオ
出典:経産省HP https://www.enecho.meti.go.jp
主要な自動車マーケットにおける電気自動車の需要予測は、現在の政策環境において、エネルギー市場や気候目標に大きな影響を与える。既存の政策に基づき、STEPSでは自動車交通における石油需要は2025年頃にピークに達すると予測され、電気自動車によって代替される石油量は2030年には1日あたり500万バレルを超えるとされている。STEPSでは、2030年に電気自動車の使用により約7億トン(CO2換算)の排出が回避される。
EUと米国は、それぞれの電動化の挑戦目標に見合った法案を成立させた。EUは、Fit for 55パッケージで定められた2030年の目標に沿った乗用車とバンの新しいCO2基準を採用した。米国では、インフレ抑制法(IRA)と、カリフォルニア州の先進クリーンカーIIルールの多くの州での採用と相まって、2030年には国家目標に沿った電気自動車の市場シェア50%を実現する可能性がある。米国環境保護庁が最近提案した排ガス規制の実施により、このシェアはさらに拡大することが予想される。
EVの拡大見通しに後押しされ、電池製造の拡大が続いている。2023年3月現在、2030年までの電池生産能力に関する発表は、政府公約から必要となる需要を満たすのに十分であり、2050年までのネットゼロエミッション・シナリオにおける電気自動車の需要をカバーすることも可能である。したがって、現在の政府政策や国家目標に基づいて予想されるよりも、電気自動車の販売シェアが高くなる可能性は十分にある。
2022年の世界の電気自動車への投資は4,250億米ドルを超え、2021年比で50%増となった。この投資のうち、政府の支援に起因するものはわずか10%で、残りは消費者によるものである。投資家もEVへの信頼を維持しており、2019年以降、EV関連企業の株価は従来の自動車メーカーを常に上回っている。EVやバッテリー技術を開発する新興企業へのベンチャーキャピタル投資も好調で、2022年には2021年比で30%増の約21億米ドルに達し、バッテリーや重要鉱物への投資が増加した。
2022 年には、SUV と大型車が電気自動車の選択肢の大半を占めた。中国と欧州ではBEVの選択肢の60%を占め、米国ではさらに大きな割合を占めている。これは、内燃機関自動車市場で見られるSUVへの傾向と同様である。2022年に、内燃機関SUVは1ギガトン以上のCO2を排出し、その年の電気自動車による8,000万トンの純排出削減量をはるかに上回る量となる。バッテリー駆動のSUVは、小型車に比べて2〜3倍の大きさのバッテリーを搭載していることが多く、より多くの重要な鉱物を必要とする。しかし、昨年のSUVの電気自動車は、1日あたり15万バレル以上の石油消費量を削減し、エンジンで燃料を燃やすことで発生するはずだったテールパイプ排出を回避することに成功した。
電気自動車市場における競争は激化している。主に中国からの新しい参加者、また他の新興市場からも、より手頃な価格のモデルを提供する新規参入者が増えている。特に欧州では、大手既存自動車メーカーも意欲を高めており、2022年から2023年にかけて、フル電気自動車、より安価な乗用車、投資の拡大、バッテリー製造や重要鉱物との垂直統合など、EVに関する重要な発表が相次いだ。
消費者は、増え続ける選択肢の中から電気自動車を選ぶことができる。利用可能な電気自動車のモデル数は2022年に500に達し、2018年における利用可能な選択肢の2倍以上となる。しかし、中国以外では、EVの大量導入を可能にするために、OEM(相手先商標製品製造会社)が手頃な価格の競争力あるオプションを提供する必要がある。現在、利用可能な電気自動車モデルのレベルは、市場にあるICEオプションの数よりまだ大幅に低いが、ICEモデルの数は2010年代半ばをピークに着実に減少している。
道路交通の電動化は、自動車だけにとどまらない。二輪車や三輪車は、現在最も電動化されている市場セグメントであり、新興国や発展途上国では、自動車の数を上回っている。2022年のインドの三輪車登録台数の半分以上が電気自動車であり、政府のインセンティブや、特に燃料価格の上昇を背景に従来型と比較して低いライフサイクルコストにより、その人気が高まっていることを示している。多くの発展途上国では、二輪車や三輪車は手頃な価格でモビリティを手に入れることができるため、その電動化は持続可能な開発を支援するために重要である。
商用車の保有も電動化が進んでいる。小型電気商用車(LCV)の世界販売台数は、LCV全体の販売台数が15%近く減少する中、2022年には90%以上増加し、31万台以上となった。2022年には、世界で約66,000台の電気バスと60,000台の中型・大型トラックが販売され、バス販売全体の約4.5%、トラック販売全体の約1.2%に相当する。都市部の密集地など、政府が公共交通機関の排出量削減に取り組んでいる地域では、電気バスの販売比率はさらに高く、例えばフィンランドでは、2022年に電気バスの販売比率が65%を超えた。
大型車の電動化に対する意欲は高まっている。2022年には約220の大型電気自動車モデルが市場に投入され、100を超えるOEMが提供するモデルは800を超えた。また、米国とEUは、大型車に対する排出ガス規制の強化を提案
している。
電気自動車の需要増は、電池と関連する重要鉱物の需要を促進している。自動車用リチウムイオン電池の需要は、主に電気乗用車の販売台数の伸びにより、2021年の約330GWhから2022年には約550GWhと約65%増加した。2022年には、リチウムの約60%、コバルトの約30%、ニッケルの約10%がEV用電池の需要となっている。わずか5年前には、これらのシェアはそれぞれ約15%、10%、2%であった。重要な材料の必要性を減らすことは、サプライチェーンの持続可能性、強靭性、安全性にとって重要であり、特に電池材料の最近の価格動向を考慮すると重要である。
従来のリチウムイオンに代わる新しい電池が増えつつある。リチウム鉄リン酸塩のシェアは、主に中国が牽引し、過去最高を記録した。リチウムフリーのナトリウムイオン電池のサプライチェーンも確立されつつあり、100GWhを超える製造能力が現在稼働中または発表されており、そのほとんどが中国にある。
EVのサプライチェーンは拡大しているが、製造は依然として特定の地域に高度に集中しており、バッテリーやEV部品の貿易では中国が主役となっている。電気自動車輸出台数の中で、中国から輸出される割合は、2021年は25%であったが2022年は35%となった。ヨーロッパは、電気自動車とそのバッテリーの両方において、中国にとって最大の貿易相手国である。2022年、中国で製造され欧州市場で販売される電気自動車のシェアは、2021年の約11%から16%に増加した。
多様化によるレジリエンス構築のため、EVサプライチェーンはEV関連の政策立案の最前線になることが多くなっている。EUが2023年3月に提案した「Net Zero Industry Act」は、EUの年間電池需要の90%近くをEUの電池メーカーで賄い、2030年には少なくとも550GWhの製造能力を持つことを目指している。同様に、インドでは、PLI(Production Linked Incentive)制度を通じて、電気自動車と電池の国内製造を促進することを目指している。米国では、インフレ抑制法(IRA)において、クリーンカー減税の適用基準として、EV、EV用電池、電池鉱物の国内サプライチェーンの強化が強調されている。その結果、2022年8月から2023年3月にかけて、大手EV・電池メーカーはIRA後、北米におけるEVサプライチェーンに少なくとも520億米ドルの累積投資を発表しており、そのうち50%が電池製造、約20%ずつが電池部品とEV製造である。