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★温室効果ガス排出強度に基づく水素の定義に関する検討
《IEAレポート Towards hydrogen definitions based on their emissions intensity より》


 

出典:Towards hydrogen definitions based on their emissions intensity (windows.net)

 本報告書は、2023年4月のG7気候・エネルギー・環境閣僚会議に先立ち、政策立案者、水素製造者、投資家、研究機関に情報を提供するために、国際エネルギー機関(IEA)が新たに作成したものである。本報告書は、IEAの「Net Zero by 2050: A Roadmap for the Global Energy Sector」の分析結果を基に作成されており、IEAがロードマップの分野別詳細に関しG7向けに作成した一連の報告書である「Achieving Net Zero Electricity Sectors in G7 Members」、「Achieving Net Zero Heavy Industry Sectors in G7 Members」、「Emission Measurement and Data Collection for a Net Zero Steel Industry」を引き継いでいる。本報告書では、異なる水素製造ルートの温室効果ガス排出強度を評価し、規制や認証スキームの策定における水素製造の排出強度を利用する方法を検討した。国際合意された排出量計算の枠組みは、投資を下支えする契約において、表現や用語に基づく技術の利用が非現実的であることが判明した場合に、その技術から脱却する方法となる。このような枠組みの採用は、必要な透明性をもたらすだけでなく、相互運用性を促進し、市場の断片化を抑制し、国際的な水素サプライチェーンの発展のための投資を可能にする有用な手段となり得る。

【訳者注】
〇重要と思われる点についてはアンダーラインを施した。

◆◆要 約◆◆

水素製造に伴う二酸化炭素排出量を明確に把握することにより、投資を可能にし、スケールアップを加速する。

 低エミッション水素製造のための大規模プロジェクトの多くは、重大なボトルネックに直面している。これまでに発表されたプロジェクトのうち、建設中または最終的に投資決定がされたのはわずか4%である。将来の需要に関する不確実性、エンドユーザーに水素を供給するためのインフラの不足、規制の枠組みや認証スキームが明確でないことなどが、プロジェクト開発者の投資への確固たる決断を妨げている。

 水素製造の排出強度を透明にすることで、必要なことが明確になり、投資を促進することができる。異なる製造ルートを示す色(グレー、ブルー、グリーンなど)や、「持続可能」、「低炭素」、「クリーン」な水素といった用語は、多くの場合、異なるレベルの潜在的な二酸化炭素排出量を不明瞭にしている。このような用語は、契約締結の判断基準として実用的でないことは明らかであり、潜在的な投資家を遠ざけている。国の規制の定義に水素製造の排出強度の使用を合意することで、各国政府は市場と規制の相互運用性を促進することができる。本報告書は、各国政府が自国の状況に合った水素製造の排出強度を決定できるよう、個々の水素製造ルートの排出強度を評価することにより、各国政府を支援することを目的としている。

水素、アンモニアおよび水素ベースの燃料の製造や利用はスケールアップする必要がある。

 G7は、低エミッション水素、アンモニア、水素ベースの燃料の生産と利用のスケールアップを加速するための取り組みの要となっている。G7メンバー(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国、EU)は、今日の世界の水素製造と需要の約4分の1を占めている。同時に、G7メンバーは、水素製造の脱炭素化や、最終用途分野での新しい水素アプリケーションの技術開発におけるフロントランナーでもある。G7は、その技術的リーダーシップと経済力を活かして、低エミッション水素の生産と利用の拡大を可能にすることができる。しかし、G7メンバーだけでこの課題に取り組むことはできない。国際的な水素市場の発展には、新興国を含む他の幅広いステークホルダーの関与が必要である。

 水素、アンモニア、水素ベースの燃料は、クリーンエネルギーへの移行において重要な役割を担っている。世界の水素需要は2021年に9,400万トンに達し、主に精製や工業における原料としての利用に集中している。政府の気候変動に関する目標を達成するためには、低エミッション水素の需要創出、特に重工業や長距離輸送など、排出ガスの低減が困難な分野での新たな用途への転換が必要である。同時に、水素製造の脱炭素化も必要であり、現在、低エミッション水素は世界の生産量の1%未満にとどまっている。

  国際的なサプライチェーンの構築は、需要が大きく、低エミッション水素を製造する可能性が限られている国や地域のニーズを満たすのに役立つ可能性がある。地域によるコストの違いや、低エミッションの水素、アンモニア、水素ベースの燃料を製造する可能性が低い地域での需要の高まりは、転換や輸送による追加コストがかかるにもかかわらず、これらの燃料を取引する国際水素市場の発展を支えることができる。世界的なエネルギー危機により、化石燃料への依存度を下げ、エネルギー安全保障を強化する方法として、低エミッション水素への関心がさらに高まり、水素の世界貿易の新たな推進力となっている。

排出強度に基づく水素の定義は、しっかりとした規制の基礎となり得る。

 水素製造の排出強度は、製造ルートによって大きく異なる。現在、水素の製造には化石燃料が使用されており、気候変動対策のため排出量を大幅に削減する必要がある。使用する燃料や技術、CO2回収・貯留の割合、上流・中流工程の排出量などはすべて、水素製造の排出強度に強く影響する。例えば、化石燃料を使った生産では、上流と中流工程の排出量にもよるが、最大で排出量(CO2換算(以下同様))は27kg-CO2/kg H2となる。逆に、CO2回収・貯留を伴うバイオマスからの水素製造は、回収した生物起源の炭素を自然界の炭素循環から取り除くため、排出量がマイナスになる可能性がある。2021年の世界の水素製造の平均排出強度は、12〜13kg-CO2/kg-H2の範囲であった。IEA Net Zero by 2050シナリオでは、この平均排出強度は2030年までに6〜7 kg-CO2/kg-H2に達し、2050年までに1 kg-CO2/kg-H2を下回る。

 電気分解によって製造される水素の排出強度は、使われる電力からの排出量によって決まる。IPHE(International Partnership for Hydrogen and Fuel Cells in the Economy)1が開発した方法を用いると、再生可能エネルギーによる発電2には関連する排出がなく、0 kg-CO2/kg-H2となる。系統電力の場合、電解槽の追加需要をどの技術で満たすかによって、ピークロード時とベースロード時で排出強度が大きく変化する。したがって、排出量を削減するためには、系統連系型電解槽が化石燃料による発電量の増加につながらないようにすることが重要である。

 炭素回収・貯留技術により、化石由来の水素製造からの直接的な排出を削減することができるが、上流・中流工程での排出量を削減する対策が必要である。削減対策をしていない天然ガスからの水素製造における排出強度は、10〜14 kg-CO2/kg-H2の範囲となるが、そのうち、天然ガス製造の上流および中流工程におけるメタンとCO2の排出は、1〜5 kg-CO2/kg-H2に相当する。天然ガスの原料使用時に発生するCO2の回収(回収率60%程度)を既存設備に組み込むことで、排出強度を5?8kg-CO2/kg-H2まで低減することができる。さらに高い回収率(90%以上)を達成するためには、先進的な技術を導入し、排出量を0.8?6kg-CO2/kg-H2まで削減することができるが、これらの技術を用いたプラントはまだ稼動していない。回収率が高い製造方法の場合、水素製造の排出強度のうち、上流と中流工程の排出強度は0.7〜5kg-CO2/kg-H2を占め、天然ガスを製造する際のメタン排出を削減することが重要である。

 各国政府は、国内および輸入の水素製造を脱炭素化するためのロードマップを、それぞれの国情に応じて定めるべきである。したがって、本報告書では、水素製造の排出強度の一般的な許容上限閾値は示さない。しかし、各国政府は、低エミッション水素の生産と利用を拡大するための意思決定に際して、排出強度、供給量、価格などの要素を考慮する必要がある。低エミッション水素の製造コストが高いこと、および化学部門における化石燃料を使用する既存の水素製造資産が比較的若い年代であることが、低エミッション水素の普及を阻む障壁となっている。既存の生産設備にCO2回収・貯留設備を導入することは、生産を部分的に脱炭素化するための費用対効果の高い短期的なオプションとなり得る。再生可能資源が豊富な地域では、2030年以前でも、水素製造に再生可能電力を使用することが最も費用対効果の高い選択肢になると考えられている。

1 IPHEは、水素の製造と精製における温室効果ガスの排出強度を計算するための方法論を開発し、水素輸送に関する方法論を完成させる予定である。IPHEの方法論は、このテーマに関する最初の国際規格のベースとなり、水素製造の排出強度を規制に採用するための最初のステップとなり得る。
2 IPHEでは、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電はゼロエミッションとしている。

水素製造の排出強度を規制で言及すれば、相互運用を可能にし、市場の分断を抑制することができる。

 現在、水素の持続可能性を定義するいくつかの認証制度や規制の枠組みが開発されているが、整合性の欠如が市場の分断を招く恐れがある。既存の取り組みには、対象範囲、システムの境界、生産経路、連鎖保管のモデル、排出強度レベルにおいて、いくつかの共通性がある。しかし、アプローチの一貫性のなさが、国際的な水素貿易の発展の障害となる危険性がある。規制と認証に使用されるよう適用された方法論を共通して理解し、水素製造の排出強度を参照することは、市場発展の重要な成功要因になり得るもので、現在行われている取り組みを置き換えたり重複させたりするのではなく、最低限の相互運用性を促進し相互承認を可能にする。

 水素製造の排出強度を利用した規制や認証は、さらなる持続可能性基準にも対応できるはずである。 政府および企業は、クリーン燃料および原材料としての水素の使用について決定を下す際に、他の潜在的な持続可能性要件を考慮することを望むかもしれない。エネルギーの起源、土地や水の利用、労働条件などの社会経済的側面に関する基準は、すでにいくつかの規制や認証制度に組み込まれている。排出強度の使用は、相互運用を可能にするための第一歩であるが、政府や企業が追加の基準を取り入れることを妨げるべきでない。「製品パスポート」の利用は、これらの基準をまとめるだけでなく、プロセスの標準化、コストの最小化、透明性の最大化を図るのに役立つ。

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