■海外情報

★フィンランドにおける自動車用先進燃料の動向
《AMF-TCP(自動車用先進燃料技術連携プログラム)2021年間報告書より》


 

出典:https://www.iea-amf.org/

◆◆フィンランド◆◆

自動車用先進燃料普及の背景及び政策
 2016年に策定された2030年に向けたエネルギー・気候戦略では、運輸部門からのCO2排出量は2005年比で50%削減を要求している[9]。
2019年の政府プログラムでは、新しい上限目標が設定された:  フィンランドは2035年までにはカーボンニュートラルを達成し、化石燃料フリーの福祉社会になることを狙いとしている。フィンランド運輸通信省は2021年5月、2005年を基準年として2030年までに運輸部門の温室効果ガス排出量を半減し、2045年までに排出量ゼロを目指す「脱化石燃料運輸ロードマップ」を発表した。ロードマップの施策には、電気自動車やガス自動車の調達、物流インフラ、歩行者や自転車の通行、公共交通機関などを支援するアクションが含まれている。さらに、再生可能燃料の供給義務強化や、リモートワーク、新しい輸送サービス、貨物運送における積み合わせ輸送の影響も評価対象としている[10]。
 現在のバイオ燃料規制(液体バイオ燃料)では、2021年にバイオ燃料を18%にすることが求められている。2019年春、バイオ燃料規制が改訂され2030年に向けた道筋が設定された。2029年以降のバイオ燃料の目標は30%で、今回は2倍カウント[訳者注-1)]せずに実際のエネルギー貢献度を反映させた目標となっている。
訳者注-1)先進バイオ燃料の2倍カウント⇒2009年再生可能エネルギー指令(RED)では、先進バイオ燃料の導入量は2倍カウントして良いことになっている。詳細は以下のRED参照。
2009年RED (21項):運輸部門における再生可能資源からのエネルギーに関する特別規定
1.加盟国は、すべての輸送用再生可能エネルギー源の利用可能性および環境上の利益に関する情報を確実に一般公開するものとする。石油などの鉱物油に混合されたバイオ燃料が10%(体積)を超える場合、加盟国はこれを販売拠点に表示すること。
2.事業者に課される再生可能エネルギー義務の遵守、及び第3条(4)で言及されているあらゆる形態の輸送における再生可能資源からのエネルギー使用に関する目標遵守を実証する目的で、廃棄物、残渣、 非食品セルロース系原料、及びリグノセルロース系原料は、他のバイオ燃料から製造されるものの2倍であると見なされる。

 このため、2021年の義務量が2020年(20%)に比べて少なくなっている。また、RED II指令に従って、先進バイオ燃料についてはサブ目標が別途設定されており、2021年から2023年の間に2%となっている。2021 年にフィンランドは、2022 年 1 月 1 日からの輸送用バイオ燃料規制におけるガス状および液化バイオガス を修正する法律を可決し、2023 年 1 月 1 日からのバイオ燃料規制における電気燃料(electrofuels)を修正する法律を可決した[11,12]。現在の水準は 3%で、年ごとに増加し、2030 年には 10%になる予定である[13]。
 2011年時点で、燃料税システムの構成は、エネルギー、CO2及び大気汚染物質低減ボーナスの各要素から成り立っている。この制度は、優れたバイオ燃料を優遇しているが、透明性が高く、技術的に中立であり、液体バイオ燃料規制との併用が可能である。乗用車の税制(購入税、年間税)は2008年からCO2ベース(テールパイプベース)となり、BEVやPHEVに対する大きなインセンティブとなっている[14]。

自動車用先進燃料の動向(統計情報)
 2020年における全輸送モードを含む国内輸送のエネルギー消費は、166PJであった。そのうち自動車交通におけるエネルギー消費量は、表1に示す通り152PJ(3.6Mtoe(訳者注 Mtoe:百万トン原油相当量))であった。総最終消費量1,018 PJ[15]と比較すると、それぞれのシェアは16.3%と14.9%であった[16]。2020年における温室効果ガス(CO2排出量相当量)は、47.1Mt(百万トン)であった。そのうち運輸部門(全輸送モード)からは10.3Mt、自動車交通からは9.8Mtで、それぞれのシェアは22.0%及び21.0%であった[17,18]。

[9]https://tem.fi/en/energy-and-climate-strategy-2016
[10] https://www.lvm.fi/en/
[11]https://www.edilex.fi/verohallinnon_ohjeet/2020_1116.html
[12]https://tem.fi/-/biopolttoaineet-jakeluvelvoitteeseen
[13]Parkkonen, L. (2013). Taxation of petroleum products and vehicles in Finland.
   CEN/TC 19 Conference. Helsinki, May 27, 2013.
[14]https://www.lvm.fi/en/
[15]pxnet2.stat.fi/PXWeb/pxweb/fi/StatFin/StatFin__ene__ehk/statfin_ehk_pxt_12sz.px/
[16]pxnet2.stat.fi/PXWeb/pxweb/fi/StatFin/StatFin__ymp__khki/statfin_khki_pxt_111k.px/
[17]pxnet2.stat.fi/PXWeb/pxweb/fi/StatFin/StatFin__ymp__khki/statfin_khki_pxt_111k.px/
[18]http://lipasto.vtt.fi/en/liisa/index.htm

表1 2020年における自動車交通のエネルギー

出典: pxnet2.stat.fi/PXWeb/pxweb/fi/StatFin/StatFin__ene__ehk/statfin_ehk_pxt_12sz.px/

 実際の総燃料量のうちバイオ燃料の貢献は、エネルギーの観点からは11.0%である。内訳範囲はガソリンの7.4%(ほとんどがエタノール、多少のETBE及びバイオナフサ、但しこれに関する詳細統計情報はない)からメタンの53%である。実際の量は402ktoeで液体燃料の11.0%であった。このことは、使用されたバイオ燃料の大部分が2倍カウントの対象であったことを意味している。
 フィンランドにおけるバイオ燃料の四つの主要プレーヤーは、Neste(HVO(水素化植物油)の世界最大メーカー)、UPM、St1及びGasumであり、総生産量は約540ktoe(千トン原油相当量)である19。2020年のフィンランドのバイオ燃料消費量と比較すると、自給以上のバイオ燃料生産がある。Nesteは主に輸入原料に依存しているが、UPM、St1及びGasumは国産原料を使用していることは特記したい。すべてのバイオ燃料生産者は、国内外での生産能力の増強を言及している。
 表2は2021年末時点での車両保有台数(二輪、三輪および軽四輪を除く)を示している。表3は、2015年から2020年における新販売台数(改訂)を示している。

表2 2021年末時点での車両保有台数(二輪、三輪及び軽四輪を除く)[20]


表3 2015〜2021年における乗用車(新車)の販売台数[21]


 代替燃料車(PHEV, HEV, NGV, FFV)のシェアは、0(特殊車)〜18.0%(乗用車)の範囲である。乗用車では、ハイブリッド車が最も台数が多いグループである。2019〜2020年においてガソリン乗用車の登録は増加し、ディーゼル乗用車の登録は減少した。一方で、BEV(バッテリー電気自動車)およびHEVやPHEVなどのハイブリッド自動車の登録は増加した。
 FFVや二燃料車含め400台程度の代替燃料トラックがある。ピックアップトラック及びバンの重量車がトラックとして登録されるため、これら二つのカテゴリの数はそれらに含まれる。LNG充填所の開発やガス燃料重量車の要望増加に伴い、LNG燃料トラックがフィンランドに導入されている。LNG燃料トラックの数は、2020年の134台から2021年には214台に増加した。バッテリー電気バスの数はガス燃料バスの数を超えている。

[20]https://www.traficom.fi/fi/tilastot/ajoneuvokannan-tilastot
[21]https://www.aut.fi/tilastot/ensirekisteroinnit/

実証研究
 2020年には、液体の電気燃料(e-fuel)に関する新しいプロジェクトがビジネスフィンランドから資金提供を受けることになった。このプロジェクト(2021-2022)は、高温電気分解による水素製造とCO2隔離、フィッシャー・トロプシュ燃料合成の統合開発を目的としており、このプロジェクトには最終用途に関する研究も含まれている。BIOFLEXプロジェクト(2020-2022)では、バイオマスや廃プラスチックを原料とした燃料油が、発電所や船舶のディーゼルエンジンにどれだけ適しているかを調査している。新しいバイオ燃料を船舶用エンジンに使用する場合の製造プロセスの開発および排出量の測定が研究されている。
 2018年から2021年にかけて、VTTはIEA AMFタスク57「大型車評価」を遂行し、AMF加盟国[22]のうち、最先端のHDVのエネルギー効率、CO2、汚染物質排出量の評価に集中的に取り組んだ。このプロジェクトでは、ディーゼル、HVO、B20、ED95、LNG、CNG、さまざまな燃焼モードなど、幅広い燃料が対象になっている。燃料の種類に関係なく、圧縮着火(ディーゼルプロセス)に基づくコンセプト(HPDIデュアルフューエルなど)は、かなり高い効率を実現している。テールパイプ(TTW)CO2排出量に関しては、HPDIデュアルフューエルはディーゼルよりも平均20%近く低い排出量を実現している。さらに、最新のEuro VIトラックの排出ガスは、法律で定められた規制値を大幅に下回ることが可能である。再生可能燃料は、最先端のHDVパワートレインと組み合わせることで、WTW(Well-to-Wheel)ベースのGHG排出量を削減するための効果的な手段となる。したがって、テールパイプ排出量のみに焦点を当てたHDVのCO2規制は、代替燃料を使用するトラックのさらなる開発にとって障壁となる。これは、代替燃料専用のクリーンで効率的なエンジンの開発を止め、既存事業用自動車ではドロップイン燃料を使用することになり、市場に参入する新しいトラックでは電動化を優先させる結果になりかねない。また、このプロジェクトでは、軽視されがちな車両サイズと相対的な積載量の影響についても調査した。ヨーロッパの典型的な42トントラックよりも高い車両総重量(GVWR)を持つ高積載輸送(HCT)を増加させることは、貨物輸送のトン・kmあたりのCO2排出量を減らすためのコスト効率の良い方法となる。
 水素関連プロジェクトとして、水素燃料電池を用いた船舶用ハイブリッドパワートレインシステムを検討するMARANDAプロジェクト(2017年〜2021年)が現在も進行中である。H202Flagsipプロジェクト(2019-2022年)では、フランスとノルウェーにある2隻の船に合計1MWの水素燃料電池を搭載し、船はプロジェクト期間中18ヶ月間商業運航する。
 2017年から2021年まで、ビジネスフィンランドは「スマートエネルギーフィンランド」41というプログラムを実施した。このプログラムは、技術開発と輸出サービスを統合したものであり、2017年から2021年のスマートエネルギーソリューションの革新に1億ユーロが供与されている。このプログラムはまた、成長の可能性を有し、その製品ポートフォリオが再生可能エネルギー及びスマートエネルギーソリューションを特色とする成長志向企業の国際的な拡大を支援するものである。そのプログラムのスコープは極めて広く、運輸に関連する部分はそのプログラムのごく一部である。しかしながら、プログラムの一つのサブテーマとしてバイオガスや先進液体バイオ燃料を含む持続可能なバイオエネルギーソリューションがある。もう一つのサブテーマは電池を扱っていることであり、運輸部門とのつながりがある。
 ビジネスフィンランドが資金提供する「クリーン動力プロジェクト」(2021-2023)は、効率向上と再生可能燃料のための海上および自動車交通以外のエンジン技術の開発に重点を置いている。このプロジェクトには4つの重点分野がある。一つ目の重点分野には、持続可能な海運のためのロードマップの策定である。二つ目の分野は、ハイブリッド技術の実証を含む、複数の動力源を持つ推進システムの調査と開発である。三つ目の分野は、ゼロエミッションに近い新しい燃焼コンセプトと排ガス後処理技術である。また、ノンロード用途の水素を含む、さまざまな燃料オプションが研究されている。四つ目の分野は、パワートレインの効率向上と再生可能燃料の完全普及のための仮想センサーと制御アルゴリズムの開発である。

[22]https://www.iea-amf.org/content/projects/map_projects/57

今後の動向
 フィンランドは、非ETS(Emission Trading System:排出量取引制度)分野で2030年までに39%のCO2を削減しなければならない。このため、運輸部門の排出量削減が急務となっている。バイオ燃料あるいはもう少し汎用性ある言葉で言うと再生可能燃料は輸送分野におけるエミッション削減の重要な要素とみなされている。フィンランドは、2019年春に新しい液体バイオ燃料の義務化を法制化し、2030年までのバイオ燃料政策が確定している数少ない国の一つである。バイオ燃料の増産と並行して、運輸分野のエネルギー効率化と電化も推進されている。
 最新の政府プログラムでは、循環型経済とバイオガスに注目が集まっており、運輸分野においてはバイオメタンの利用を促進する政策志向がある。2020年時点で、ガス市場の開放(ガス導管と販売の分離42)により、エストニアへの新しいパイプラインの接続とLNG輸入用のターミナルは、陸上および海上での移動アプリケーションだけでなく、定置アプリケーションにおけるメタンの新しい可能性を開ことになる。現在、フィンランドのLNG船は、旅客船や貨物船が約10隻、砕氷船が1隻、国境警備船が1隻ある。2020年末には、運輸用ガスと暖房用ガスのバイオガス義務化が提案された。法律として成立すれば、将来的にバイオガスを国のガス網に混合することが義務づけられることになる。
 フィンランドのエネルギー企業は、バイオ燃料の分野で積極的に活動している実績がある。フィンランド国内外において、新たな生産能力が期待されている。
その他の情報源
 フィンランドのエネルギー・気候戦略では、2030年までに運輸部門からのCO2排出量を50%削減することが求められており、2035年までにCO2ニュートラルとすることが新たな上位目標に設定されている。液体バイオ燃料義務化法では、2030年にバイオ燃料を30%(実際のエネルギーシェア)にすることを要求している。また、先進的なバイオ燃料については、別途10%のサブ目標が設定されている。つまり、フィンランドは世界で最も先進的なバイオ燃料政策を実施していることになる。さらに、政府は循環型経済とバイオガスの開発を重視している。

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