★IEA Global EV Outlook 2022 充電インフラの展開支援政策(概要)
 国際エネルギー機関(IEA)は、2022年5月23日に世界の電気自動車の動向に関する分析を行った「IEA Global EV Outlook 2022」を発表しました。この内容は、最新の世界の電気自動車の普及動向や主要各国の政策等をまとめたものです。このうち、EV商用車に関する情報から「インフラの展開支援政策」を仮訳しましたので以下に紹介します。

出典:Global Electric Vehicle Outlook 2022 (windows.net) 2022.5.23発表

◆◆挑戦的なEV普及目標を達成するために、EV充電インフラ・ネットワーク計画への投資を大幅に増加させなければならない◆◆

 中国と欧州は、世界最大のEV充電ネットワークを誇っている。2021年の世界のEV保有台数の48%は中国、33%は欧州の充電ネットワークにより供給されており、その割合は非常に大きい。充電インフラの整備は、ZEV の普及に不可欠であるため、これは驚くべきことではない。中国と欧州は、標準化、充電ポイントの性能向上、農村部を含むより広い場所での利用、顧客サービス、高出力充電器などの先進技術導入のための柔軟性向上など、高まる消費者需要に対応するために充電インフラの強化を目指している。長期的な戦略として、スマートでアクセス性の良い EV 充電ネットワークの構築に重点を置いており、2021年にZEV導入の約束を発表したことが大きい。ZEVの挑戦を実現するためには、公共的にアクセス可能な十分な充電インフラを展開することに重点を置く必要がある。
 挑戦的なEV普及を行うためには、充電インフラへの大規模な投資が必要である。成熟した EV 市場では、需要増に対応するために充電ステーションの数量をさらに拡大するだけでなく、先進地域や農村地域、住宅、主要な交通ルートでEV充電インフラを提供するために、アクセス性の良いネットワークを確実に展開する必要がある。新興市場や発展途上国では、電力アクセスや送電網への安定した接続確保がさらなる障壁となる可能性がある。全体として、電力システムの脱炭素化が、ZEV の排出量削減ポテンシャルをフルに発揮するための重要な要素である。
 主要な ZEV 市場から得られた教訓は、中央政府による計画や政策的インセンティブによる戦略的なインフラ整備の欠如、および様々な政府機関、電力会社、ビル事業者、充電ポイントプロバイダーなどの主要プレーヤー間の連携が不十分となることにより、インフラの特定地域集中化(遠隔地ではしばしば不足)につながる傾向があることを示している。また、より成熟したEV市場での経験から、建築規制、相互運用性基準、効率的な許認可のサポートとともに、土地や電力グリッド接続へのアクセスがインフラ開発を容易にすることが実証されている。車の行動パターンのデータは、EVネットワーク計画を最適化するために、充電パターンや行動を理解するのに役立つ。その他、スマートグリッド技術の導入、充電用再生可能エネルギーの最大利用、充電インフラ統合のインセンティブと合理化、エネルギー市場参加者へのインセンティブ付与など、関連技術の発展を促すための取り組みが必要である。
 充電ポイントが建設される場所は、最良のビジネスケースである可能性があるので、必ずしも均等に分散された充電ネットワークになるわけではなく、ギャップが生じる。これに対する政府の対策としては、EV充電インフラの展開を政策的に優先して投資を呼び込むこと、電気自動車供給設備(EVSE:electric vehicle supply equipment)の長期契約を提供すること、競争的なEVSE調達において様々なタイプのロケーションを束ねること、などが挙げられる。

◆◆いくつかの国におけるEV充電政策の最近のハイライト◆◆

カナダ
【公共充電ポイント一か所あたりの電気自動車(乗用車)の数: 20 [19] 】
【保有電気自動車(乗用車)[20]千台あたりの公共充電ポイント数: 0.53 】
 カナダの電気自動車・代替燃料インフラ普及イニシアティブにより、沿岸から沿岸への急速充電器のネットワーク構築に向けて9,660万カナダドル(7,400万米ドル)を提供したが、現在終了している。職場や集合住宅などの充電インフラの格差に対応するため、2027年までの5ヵ年計画でゼロエミッション車のインフラ構築に6億8,000万カナダドル(5億2,300万米ドル)を拠出する。2021年末に、EV充電器と水素ステーションを新たに5万基追加する目標が発表された。その後、2022年3月に ERP(Emissions Reduction Plan) は、カナダ・インフラストラクチャー・バンクから ZEV 充電ステーションと給油インフラのために 5 億カナダドル(3億8,400 万米ドル)を追加で調達することを発表した。
 EV 市場シェアでリードしている州では、充電インフラ整備への補助金として公的資金を割り当てているところもある。ブリティッシュ・コロンビア州では、「CleanBC Roadmap to 2030」で、2030 年までに 1 万基の公共充電ステーションを設置する目標を掲げ、公共セクターがレベル2充電器の購入と設置費用減額のため100万カナダドル (769,000 ドル) を割り当てている。ケベック州の「交通の電化戦略2021-2023」は、充電ステーションの数を増やし、EV専用の予約駐車場を作ることを目標としている。ノバスコシア州は最近、EV充電の普及のために50万カナダドル(384,615米ドル)の資金提供を発表した。オンタリオ州は、高速道路の休憩所、レクリエーションエリア、相乗り駐車場にEV充電器を設置するため、9,100万カナダドル(7,000万米ドル)の予算を発表している。

[19]EVの総保有数(2021年)と公共充電ポイントの総数の比率を調査。比率が低い場合、充電ポイントの数が多いだけでなく、EVのストックも少ないことを示すことができる。この指標は、充電インフラの普及状況について、各国間の比較分析を行うことを目的としている。
[20]この指標は、2021年の乗用車保有台数を使用し、現在のEVの普及状況に関わらず、公共充電ポイントの整備状況を国別に比較するために使用する。

中 国
【公共充電ポイント一か所あたりの電気自動車(乗用車)の数: 7 】
【保有電気自動車(乗用車)千台あたりの公共充電ポイント数: 4】
 中国は世界最大のEV充電インフラ網を有しており、公共充電ポイントは前年比40%増の110万カ所以上となっている。中国の電化の挑戦の一環として、10の省・委員会は2022年1月にEV充電インフラサービス強化のためのガイダンスを発表した。2025年までに2,000万台以上のEVに対応する充電インフラと、高速道路サービスの60〜80%(地域による)に急速充電スタンドを設置することを求めている。特に地方や交通ルート沿いで、アクセス性が良い分散EV充電ネットワークの構築が強調されている。現在、公共充電ポイントの70%以上が広東省と上海に設置されている。
 この目標を達成するために、政府は地域充電施設の設置、都市部と農村部の公共充電ネットワークの構築、施設のメンテナンスの改善、電力供給の強化を目指している。中国全土のさまざまな地域で、EV充電インフラに対する補助金が提供されている。中央政府は、地方政府に対して補助金制度の強化を奨励し、特に高品質のサービスステーション、高出力充電の実証プロジェクト、車両・グリッド相互作用などの業務を対象とした補助金を提供することを目指している。さらに、技術革新、標準化支援、技術応用の促進を通じて、バッテリー交換を強化することを目指している。
 特に重要なのは、国家発展改革委員会と国家エネルギー管理局(EV充電インフラ提供の責任部署)が「電気自動車充電インフラのサービス保証能力のさらなる向上に関する意見」を発表し、品質・安全監督の強化、新技術に対する補助金の増加で地方レベルでのサービス品質と連動した運用補助基準の設定、電力網建設、研究開発、新技術応用、充電設備の標準化整備を支援することである。2021年10月、産業情報化部は11都市でバッテリー交換技術のパイロットプログラムを開始し、バッテリー交換ステーションを1,000カ所建設し、バッテリー交換が可能な車両を10万台以上生産することを目標に掲げている
 交通部第14次中期計画では、高速道路のサービスエリア、交通拠点、物流パーク、バスターミナルに充電ステーションを建設することを支援する必要があると明示されている。中国国務院が発表した「現代統合交通システムの発展に関する第14次年度計画」では、特に重要な地域において、利便性が高くて効率的かつ中程度の高度な充電・バッテリー交換ネットワークの建設を計画する必要性が強調されている。上海、重慶、広西、広州、陜西などの地域の第14次計画は、EV充電目標、財政補助、または充電インフラの整備に重点を置くことを盛り込んでいる。現在、中国各地では、資本金や運営費の補助金を出しているが、その額は地域によって大きく異なる。


* 2020年に補助金申請が打ち切られた地域
注: 資本金補助に幅があるのは、交流と直流の充電ステーション、充電器の出力、場所(都市部、郊外、高速道路)、アクセス性(私営、公共)の違いによって補助金の額が異なるからである。運営費補助は、年間累積充電容量や充電施設の品質評価によって異なる場合がある(例:上海)。北京で表示されている運営費補助は、政府が運営する充電施設の一般的な充電サービス提供者に提供されるものである。
出典: 北京、重慶、成都、広州、上海、深センに関するIEAの分析

欧州連合(EU)
【公共充電ポイント一か所あたりの電気自動車(乗用車)の数: 14 】
【保有電気自動車(乗用車)千台あたりの公共充電ポイント数: 1.1 】
 欧州連合(EU)の「持続可能でスマートなモビリティ戦略」では、現在約29万基ある公共充電ポイントを2025年までに100万基、2030年までに300万基設置することを目指している。これを達成するためには、充電インフラへの大規模な投資が必要であり、ある調査では、2030年の目標を達成するためには200億ユーロ(236億米ドル)が必要であると試算している。
 目標達成のための行動とFit-for-55提案パッケージの一環として、2021年7月、欧州委員会は代替燃料インフラ指令の代替燃料インフラ規則(AFIR)への移行を提案した。AFIRを採用することで、国内法に移行することなく、拘束力のある法律のもとで設定された目標の達成を全加盟国に自動的かつ一律に義務付けることになる。また、この規制は、EV充電ネットワークの分布がバラバラなため、戦略的な充電インフラネットワークに関する中央組織での調整や相互運用性の欠如に関する問題を解決することを目的としている。
 AFIR では、加盟国は、管轄内の登録された小型BEV 1 台に対して 1kW、小型PHEV 1 台に対して 0.66kW の出力を提供することが義務付けられる予定である。また、欧州横断交通網(TEN-T)のような主要道路沿いの最低出力と距離の目標も提案されている。大型車のために、2025 年までにTEN-Tネットワーク60kmごとに出力1,400kW以上(出力350kWを1台以上)、2030年までに出力3,500kW以上(出力350kWを2台以上)の 最低出力・距離目標が初めて設定された。総合ネットワークについては、目標は同じだが、2030年と2035年に前倒しし、最大距離を100kmとしている。さらに、EUの輸送プログラム「コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ」の一環である代替燃料インフラ施設は、2023 年末までに TEN-T ネットワーク上の急速充電と水素充填ステーションに15億ユーロ(17億7千万米ドル)を利用できるようにする予定である。
 建物のエネルギー性能に関する指令の改正案は、AFIR の下でのより挑戦的な目標を補完することを目的としている。この指令は、非住宅用建物に最低1箇所の充電ポイントを設置する義務付けを改訂し、後日設置するための事前ケーブルを可能にするものである。新築の住宅についても同様の改正が提案されている。
 欧州連合におけるもう一つの重要な更新は、2030年までに輸送用燃料のGHG強度を13%削減する目標を定めた再生可能エネルギー指令Uの改定案である。この改定では、電動モビリティを促進するための新しいクレジットメカニズムが提案されており、公共の充電ステーションを通じてエネルギーを提供する再生可能エネルギー電力供給会社が、消費者に販売する電力についてクレジットを獲得できるようになる。この規定は、充電ステーションのビジネスを改善するのに役立つ。本提案における追加規定には、通常電力の自家用充電ステーションに対するスマート充電機能の確保や、個々の加盟国の評価に基づいてビークル・ツー・グリッドの機能性を要求する可能性などが含まれている。
 2021年には、EU加盟国の多くが、EUが提供する6,725億ユーロ(7,960億米ドル)の復興刺激策を活用し、EV充電インフラに多額の資金を割り当てた。ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、スペイン、スウェーデンが、2021年にEV充電インフラ網を増強するための追加資金を適用した主な加盟国である。さらに、スウェーデンは2022年初めに、主要な輸送ルートに沿った大型車充電インフラのために、5億5,000万スウェーデン・クローネ(6,390万米ドル)の資金提供を発表した。オランダでは、充電インフラに関する国家知識プラットフォーム(NKL)が、大型車充電ネットワークの展開に向けたロードマップを策定した。NKLは、大型車の充電の課題に関する試験からなるリビングラボ・プロジェクトを行う予定である。

インド
【公共充電ポイント一か所あたりの電気自動車(乗用車)の数: 32 】
【保有電気自動車(乗用車)千台あたりの公共充電ポイント数: 0.02】
 現在までに、FAME II プログラムは、25州にまたがる約2,900箇所の充電ステーションを整備するための補助金(100億インドルピー(1億3,500万米ドル))を提供している。2021年末、インド国道庁は、2023年までに国道沿いの40〜60kmごとにEV充電ステーションを設置し、35,000〜40,000kmの高速道路をカバーする目標を設定した。
 2022年1月、電力省はEV充電インフラに関するガイドラインと基準を改定した。その内容は、EV所有者が既存の電力接続を利用して自宅やオフィスで充電するための規定の緩和、充電ステーションの経済性を高めるための土地利用に関する収益分配モデル、手頃な料金の提供に関する指針、充電ステーションの系統への接続スケジュール、電力のサービス固定料金の上限などである。
 インドの2022〜2023年の政府予算発表では、「バッテリーまたはエネルギーをサービスとして提供する」ことを目的としたバッテリースワップ政策の規定が盛り込まれている。2022年4月、政府(NITI Aayog主導)は同政策の草案を発表し、6月まで関係者からのコメントを募集している。主な内容は、EV、電池、EVSE(電気自動車供給設備)間の相互運用性、安全性、性能に関する技術・運用要件、電池と交換ステーションに関する固有の識別番号の開発、電池交換部品の試験・認証基準、異なる電池サービスビジネスモデルを可能にするオープンで柔軟な義務付け、既存の需要側財政支援措置(FAME IIなど)を電池交換にも拡大、公的電池交換ステーションに対する電気料金優遇、使用済みEV電池の再生・再利用基準の開発などである。この政策は段階的に展開される予定である。最初の2年間は人口400万人以上の大都市を中心に、3年目にはすべての主要都市と州都を対象に実施する予定である。

日 本
【公共充電ポイント一か所あたりの電気自動車(乗用車)の数: 12 】
【保有電気自動車(乗用車)千台あたりの公共充電ポイント数: 0.4 】
 日本は現在、2030年までに15万基のEV充電ポイントを整備することを目標としている。ZEV 普及支援として総額 375億円(3億4,200万ドル)を計上し、うち125 億円(1億1,400万ドル)をEV充電器と水素充填器の新規導入に充当する予定である。

韓 国
【公共充電ポイント一か所あたりの電気自動車(乗用車)の数: 3 】
【保有電気自動車(乗用車)千台あたりの公共充電ポイント数: 5 】
 EVと充電インフラの目標を達成するため、韓国は2022年に低速充電器に対する適格資金を24億ウォンから740億ウォン(2,100万米ドルから6,500万米ドル)へと2021年比でほぼ3倍に増やした。急速充電器に対する資金も、2021年の45億ウォン(390万米ドル)から370億ウォン(3,200万米ドル)に増加した。この資金調達により、マンションや施設の充電ポイントが2022年に8,000から30,000に増加する見込みである。

タ イ
【公共充電ポイント一か所あたりの電気自動車(乗用車)の数: 15 】
【保有電気自動車(乗用車)千台あたりの公共充電ポイント数: 0.16】
 現在、タイには1,500基あまりの公共充電ステーションがある。その普及意欲は高い。国家電気自動車政策委員会では、EVの生産・利用目標、インフラ整備目標を設定している。2030年までに急速充電器12,000基、電動バイクのバッテリー交換ステーション1,450基を整備することを目標としている。
 タイは官民パートナーシップを活用し、指定された充電ネットワークに沿って50kmごとに1,000台以上の急速充電器を設置する計画である。国営発電公社であるEGATは、すべての移動ルートでEV充電ステーションを増やす計画で、自動車メーカー6社と契約を結び、顧客が充電ステーションを探すことができるモバイルアプリを立ち上げる予定である。

英 国
【公共充電ポイント一か所あたりの電気自動車(乗用車)の数: 21 】
【保有電気自動車(乗用車)千台あたりの公共充電ポイント数: 1.0 】
 EVインフラ戦略では、2020年から16億ポンド(23億米ドル)をEV充電インフラの導入支援に充てている。この戦略では、高速道路沿いの超急速充電ネットワークを確保するための9億5,000万ポンド(14億米ドル)の急速充電基金など、多数の政府出資制度を導入している。その他の政府出資には、地方自治体がインフラ展開を拡大するための5億ポンド(714億米ドル)の地方EVインフラ基金や、専用駐車場のない住民に公共充電を提供するために2022〜2023年に2,000万ポンド(2,900万米ドル)提供する住宅用路上充電ポイントスキームがある。
 2021年後半に提案された法案は、EUの「建物のエネルギー性能に関する指令」と同様に、新しい建物や大規模な改築にEV充電インフラを義務付けるものである。

米 国
【公共充電ポイント一か所あたりの電気自動車(乗用車)の数: 18 】
【保有電気自動車(乗用車)千台あたりの公共充電ポイント数: 0.47 】
 2021年11月に採択されたインフラ投資・雇用法では、特に州間高速道路システム沿いの指定された「代替燃料回廊」沿いに全国的な公共EV充電ネットワークを整備するため、国家電気自動車インフラ・フォーミュラ・プログラムに50億米ドルの資金が割り当てられている。さらに、EV充電アクションプランでは、農村部や利益を享受できない地域など、これまでEV充電インフラへの投資が少なかった地域に対して25億ドルを割り当てている。この投資パッケージは、米国が目標とする50万台のEV充電器の配備を支えるもので、充電インフラへの投資としてはこれまでで最大となる。米国では現在、10万台以上の公共充電器が設置されている。
 州レベルでは、カリフォルニア州公益事業委員会が、公益事業者にEV充電ステーションに関連した配電インフラの整備を義務付ける新規則を承認した。これまでは、電力会社のプログラムを利用できない顧客は、その費用を負担しなければならなかった。この新ルールにより、すべての顧客に公平な競争環境が提供され、EV充電ステーションの設置コストが25%削減される。

注: 2022 年 5 月までの特定国で現在利用可能なすべてのタイプの ZEV 充電インフラに対する資金を反映。総資金額は、充電インフラ予算発表とプログラムの年間総額に基づいており、それを資金やプログラムの有効年数で割っている。年換算した資金を2021年の電気乗用車総台数で割ったもの。
出典:イギリス、ドイツ、スウェーデン、フランス、アメリカ、カナダ、韓国、インド、日本に関するIEAの分析

◆◆新興国・途上国での政策展開◆◆

多くの新興国・途上国において、モビリティの電化は黎明期にある
 これまで、モビリティの電化の展開は、世界の多くの中低所得国では限定的なものであった。モビリティの電化は、国や地域が炭素排出強度の高い交通輸送パターンを脱却し、経済効率を高め、大気汚染や交通渋滞などの悪影響を回避・軽減し、国内の電気自動車製造・サービス能力を育成するさまざまな機会を提供するものである。一部の国では、EVの導入や生産、電池製造を支援するために、適切な規制や投資対応の枠組みを構築するための措置を講じている。政策や施策としては、国家電動モビリティ戦略、税制優遇や官民連携などの財政的インセンティブ、研究開発支援、二輪・三輪、シェアモビリティ、タクシー、バスなど状況に応じたパイロットプロジェクトや実証プロジェクトが採用されている。
 これらの国・地域でEVを普及させるためには、さらなる課題がある。例えば、中古車への依存度が高く、EVの普及にタイムラグが生じる可能性がある。また、送電網が弱い地域では、充電インフラの普及が阻害される可能性がある。また、排出ガス規制を設けていない地域、または排出ガス規制が低すぎるところはEVの普及を促進する要因にならない可能性もある。本章では、前章で紹介しきれなかった新興国・途上国のEV関連政策について紹介する。また、地球環境ファシリティ(Global Environment Facility)によるグローバルなEV支援プログラムの概要も紹介する。

アフリカ
 アフリカ大陸の自動車販売台数に占めるEVの割合はわずかである。南アフリカは市場をリードしている。2013年に設立されたuYilo eMobility Programmeは、パイロットプロジェクトと能力向上を通じてEVの普及を目指すマルチステークホルダー・プラットフォームである。このプログラムは、電池の試験や部品のモデリングを行うシステムラボ、スマートグリッドシミュレーターで構成されている。
 南アフリカの貿易産業競争局は、2021年に新エネルギー車の普及に関するグリーンペーパー[21]を発表した。その政策手段案は、従価税の引き下げとEV部品の関税撤廃で、これまで、同等の内燃機関車の輸入関税が18%であるのに対し、25%が課せられている。
 現在、南アフリカには約300の公共EV充電ポイントがある。政府は、EV充電インフラの整備を主に民間事業者に任せることを選択している。政府は、「Global Electric Vehicle Outlook 2022 PAGE|EV普及によるグリーン輸送戦略91 の政策」で、民間セクターと協力して、再生可能エネルギーによるEV充電ステーションを拡大することを目標としている。2015年、BMWと日産は両社の車両が利用する充電ステーションの全国ネットワークを共同で計画・構築する覚書に調印した。2018年には、主要な高速道路沿いにある22基の充電ステーションに加え、主要な拠点にある30基の充電ステーションからなるネットワーク「Jaguar Powerway」を立ち上げ、このネットワークの拡大が行われた。さらに最近では、アウディがGridCarsと提携し、超高速(150kW)および高速(22kW〜80kW)の公共充電ステーションを全国に設置した。
 アフリカの他の地域でも、ルワンダは気候変動に関する国の貢献に関する公約に沿うために、EV充電インフラに必要な総投資額を約9億ドルに拡大する必要があることを確認した。2021年4月、国土交通省はモビリティの電化への適応に関する戦略文書を発表し、導入促進のための様々なインセンティブの実行戦略を示した。その施策の一つとして、電化した輸送モードを使い運営する企業に対して、法人税を15%優遇することを提案している。
 ケニアでは、2030年までに運輸部門全体で二酸化炭素換算346万トンの排出量を削減するという目標を達成するために、道路交通の電化が重要な要素であると認識されている。この目標を支えるため、BEV(10人乗り以上)の物品税を20%から10%に引き下げることと、2025年までに輸入車の5%をEVにする目標が提案された。2022年1月スウェーデンとケニアの企業であるROAM(旧Opibus)は、アフリカで設計・製造された電気バスをケニアで初めて導入した。2017年の創業以来、電動バイクやオフロード車の国内生産を経てその業容を拡大したものである。これは新興国でのEVの展開を実証し、複数の市場に拡大するというROAMの目標に向けた最初の大きな一歩となる。
 ウガンダでは、国営自動車メーカーであるKiira Motorsが、2021年にEVの生産を開始する計画を発表し、今後数年以内に拡大することを表明している。
 エジプトでは、2013年から国全体で中古車の輸入が禁止されているにもかかわらず、車齢3年未満の電気自動車は関税が100%免除されている[22]。この禁止は、2018年に輸入関税に関する大統領令で強化された。主要都市では電気バスのパイロットプロジェクトが進行中である。軍事生産省は、中国の自動車メーカーであるフォトン自動車とパートナーシップを締結し、45%以上の国産部品で年間500台の電気バスを生産することになった。今後4年間で、このパートナーシップは2,000台の電気バスを生産することを目標としている。
[21]グリーンペーパーとは、ある問題についての議論を喚起し、既存の法律の改正や新しい法律の制定に役立てるために政府が発表する文書
[22]エジプトでは、Covid-19の流行によりさまざまなEV関連の計画が保留されている。

東南アジア
 ベトナムではEVの普及が遅れているが、国家計画文書ではEVの普及を進める意向が示されている。最近、政府は2022年3月から2027年2月まで、EVの登録料をゼロにする政令を制定した。その後、登録料は従来車の50%に引き上げられる。
 2021年、エネルギー鉱物資源省は、2030年までに200万台の電気乗用車と1,300万台の電気バイクを実現する目標を支援する「国家重要エネルギー戦略」を策定中であることを明らかにした。これは、燃料消費量の削減により石油輸入を 77,000 バレル/日削減する目標と相まって、内燃機関車に直接影響を与え、ZEV の導入をサポートすることになる。まだ政府文書には反映されていないが、最近、2050年までに販売されるすべての新車を電気自動車にするという挑戦が発表された。その他のインセンティブとしては、贅沢品消費税におけるHEVとZEVへの税制優遇措置がある。これらの目標をサポートする既存の政策には、低炭素排出車プログラムがある。
 インドネシアのエネルギー鉱物資源省は、2020年に「BEV用充電インフラの提供に関する規則」を導入した。これは、充電ステーションの認可手続きを緩和するとともに、事業者、小売業者、協力者に関する3種類のビジネススキームの確立を支援することを目的としている。
 インドネシアの各都市では、交通省がバッテリー式電気バスの導入方法を検討している。ディーゼルバスを電気バスに置き換える「DAMRI E-Bus Project」は、ジャカルタ周辺での交通の電化スケールアップの第一段階に入っている。
 タイでは、2022年2月にEV導入促進のためのインセンティブパッケージが発表された。7万タイバーツ(THB)(2,191ドル)(電池容量10〜30kWh)から15万THB(4,695ドル)(電池容量30kWh以上)のBEVの購入補助、物品税の軽減(2025年まで)、輸入税の軽減(2023年まで)などの措置がとられている。自動車メーカーと政府は、2025年までにBEVの国産化を開始することで合意しており、電気二輪車にも同様の優遇措置がある。
 マレーシアでは、2021年10月に発表された「マレーシアの低炭素モビリティ計画」に続き、2022年予算でEV普及のためのインセンティブパッケージが発表された。その施策の中には、現地で組み立てられたBEVに対する税の全額免除、輸入BEVに対する輸入税と物品税の免除が含まれている。また、BEVに対する100%の道路税免除や、EV充電に対する所得税優遇も用意されている。

ラテンアメリカ
 チリは、前節で述べたようにこの地域におけるモビリティの電化の展開という点では、引き続き市場をリードしている。南米の他の国も、EV関連の活動や計画を活発化させている。
 コロンビアでは、ボゴタ市が2022年に1,485台の電気バスを取得することを目標に調達を行っている。BYDやTransdevといった企業が、同市と供給・サービス契約を結んでいる。現在、260台近い電気バスが運行されている。
 2021年7月に承認されたコロンビアの法律2099は、エネルギー資源の効率的な利用を促進し、非従来型エネルギー源の利用を拡大することを目的としている。同法に基づき、鉱山エネルギー省は、公共ステーションや公共交通機関でのEV充電用電力について、20%のエネルギー消費税の免除を認めている。
 コスタリカは、ZEVの目標をサポートするためのインセンティブを提供している。道路交通の電化に向けた大きな一歩として、政府は2022年末に期限切れとなる、電気交通の進歩と支援のための法律の改正を検討している。2018年に制定された既存の法律には、新しいEVの購入に対するいくつかの経済的メリットと、輸入税や所有税の免除などBEVとFCEVの所有者に対する税に関する特典が含まれている。また、競争入札におけるEVへの加点、バス代替時のEV義務化、タクシー新規登録のEV最低条件の設定などが盛り込まれている。現在、同法の改正(No.22.713)が検討されており、インセンティブや税制上の優遇措置、免税措置の延長が検討されている。
 コスタリカの2019年国家脱炭素化計画2018-2050では、2050年までに純排出量ゼロの脱炭素経済を実現する目標を掲げている。提案されている10の脱炭素化パスのうち、3つは運輸部門に直接関連するもので、2050年までに公共交通機関と乗用車をZEVに転換すること、そして、ネットゼロまたは可能な限り低い排出量を達成するために貨物輸送を転換することが含まれている。2021年には、都市部と郊外のバス路線で3台のオール電化バスを運行させる実証プロジェクトが実施された。このバスはドイツ政府から寄贈されたものである。

世界のモビリティの電化プログラム
 世界のモビリティ電化プログラムは、低・中所得国およびそのモビリティの電化移行を支援するものである。地球環境ファシリティ(GEF)、その他の組織、二国間の共同出資によるこの5カ年プログラムは、一つのグローバルプロジェクトから成り、アジア開発銀行、セントロ・マリオ・モリーナ、欧州復興開発銀行、国際エネルギー機関、国連環境計画、各国政府など多くの組織によって実行されている。本プログラムは50カ国以上を対象としており、そのうち27カ国はGEFから技術支援とプロジェクトのための資金援助を受けている。

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