★IEA Global EV Outlook 2022 商用電気自動車の動向【EV普及促進政策(中型・大型電気自動車政策】(概要)
国際エネルギー機関(IEA)は、2022年5月23日に世界の電気自動車の動向に関する分析を行った「IEA Global EV Outlook 2022」を発表しました。この内容は、最新の世界の電気自動車の普及動向や主要各国の政策等をまとめたものです。このうち、EV商用車に関する情報から「EV普及促進政策(中型・大型電気自動車政策:Policies for electric medium- and heavy-duty vehicles )」を仮訳しましたので以下に紹介します。

出典:
Global Electric Vehicle Outlook 2022 (windows.net) 2022.5.23発表
◆◆先進国は中型・大型自動車を脱炭素化するためのZEV目標を発表◆◆
大型車分野における ZEVの普及を促進する機運は、2021年に大幅に高まった。コストの低下とバッテリー性能の向上により、車両総重量3.5トンを超える車種や特定業務車両の電化の可能性が高まり、これら業務の電化が地球規模の気候目標達成に大きく影響するため、このような状況となった。ゼロエミッションの大型車(HDV)を大規模に普及する構想は、一般的には2025年以降を目標としているが、こうした挑戦とEVモデルの普及が相まって、HDVの電化を加速させるのに必要な規制環境が整い始めている。2021年には、15カ国[14](世界の中型・大型車(M/HDV)販売台数の約5%に相当)が「Global Commercial Vehicle Drive to Zero」キャンペーン・プログラムへの支援を表明した。これらの国は、ゼロエミッション中型・大型車に関する初の世界的な覚書(MoU)に署名することで、その支持を示した。署名国は、2030 年と 2040 年の ZEV トラック・バス新車販売目標達成に向け、協力する意向である。これらの目標に向けた進捗は毎年報告され、署名者はそのような挑戦を支援するための計画を策定する必要がある。また、39 社の企業、各国政府、その他主要なステークホルダーがこの MoU に署名し、ZEV 目標に対する業界のさらなる支持を表明した。
[14]支援国 :オーストリア,カナダ, チリ, デンマーク, フィンランド, ルクセンブルグ, オランダ, ニュージーランド, ノルウェー, スコットランド, スイス, トルコ, 英国, ウルグアイ,ウェールズ
【Global Commercial Vehicle Drive to Zero プログラム】
Global Commercial Vehicle Drive to Zero Programは、ゼロエミッションの中型・大型自動車の普及加速に焦点を当てた130以上の政府および業界のリーダーによるマルチステークホルダー・パートナーシップ・プログラムである。2018年に開始されたDrive to Zeroのビジョンは、ゼロエミッションの中型・大型自動車を初期導入した用途や地域で2025年までに商業的に成功させ、2040年までに新車販売で優位に立つことである。Drive to Zeroは、「電気自動車イニシアティブ」の下、クリーンエネルギー大臣会合のキャンペーンであり、CALSTARTがコーディネートしている。これは、道路を走行する最も大きな自動車が、燃料消費、温室効果ガス排出、大気汚染にアンバランスな影響を与えることを認識したものである。COP26の期間中、Drive to Zeroはオランダ政府と協力し、15カ国によるゼロエミッション中型・大型車に関するグローバル覚書を立ち上げ、各国政府および業界リーダーから支持を得た。このグローバル覚書には、2030年までにトラックとバスの新車販売台数の30%をゼロエミッションとすること、さらに2040年までに100%とする暫定目標が盛り込まれている。Drive to Zeroの取り組みは、その実行ならびに署名者と賛同者がゼロエミッションの中型・大型自動車の販売と普及を加速させるために、十分な情報に基づいた決定を下すためのリソースを確保することに重点を置いている。Drive to Zeroプログラムは、Zero-Emission Technology Inventory (ZETI)、Total Cost of Ownership calculator (TCO)、最近ではGlobal MOU Progress Tracker Dashboardなどの業界をリードするツールを管理している。
◆◆最近の中型・大型電気自動車政策のハイライト◆◆
カナダ
2022年3月、ERP(2030 Emissions Reduction Plan:カナダの大気浄化及び経済強化のための次のステップ)において中型・大型自動車向けに初めてゼロエミッション目標(2030 年までに ZEV 販売35%)を設定した。政府は、
2040年までに100%のZEV販売を義務付ける中型・大型自動車ZEV販売規制の策定を目指しており、2020年半ばと2030年には、車種によって異なる中間規制の販売要件が設定されている。
この目標をサポートする施策として、中型・大型自動車購入インセンティブプログラムに 5 億4,750万カナダドル(4億2,100万米ドル)、水素トラック実証プロジェクトに3,380万カナダドル(2,600万米ドル)、及びZEV大型自動車へのビジネス投資に対する税額控除(2020年から2023 年まで100%で開始し、その後減額していく)がある。カナダはまた、地域社会がゼロエミッションの公共交通機関やスクールバスに投資するのを支援するため、
27億5,000万カナダドル(21億2,000万米ドル)のゼロエミッション交通基金を設立し、今後5年間で5,000台のゼロエミッションバスを購入することを約束した。ブリティッシュ・コロンビア州とケベック州では、ZEV中型・大型自動車導入のための補助金が提供されている。
チ リ
チリは、
2022年1月に発表した「モビリティの電化に関する国家戦略」の中で、2035年までに販売する公共交通車両(バス、タクシー、乗合タクシー)の100%を、2045年までに貨物輸送(長距離トラック)と都市間バスをゼロエミッションにする目標を掲げている。首都サンチアゴには、中国以外では最大級の電気都市バスが既に導入されている。現在、800台以上の電気バス(ミニバス含む)が走っており、自治体による電気バスの新規調達により、約1,000台のバスが追加される予定(現在納入待ち)である。これを可能にしたのは、Enel X、BYD Chile、チリの公共交通機関であるMetbusが協力して立ち上げたモビリティ電化プロジェクトで、483台の電気バスにターミナルにある120以上の充電ポイントを供給する予定であるなど、さまざまなパートナーシップによるものである。
中 国
中国では、2020年に都市部の新型大型自動車のVI-a排出ガス規制が施行され、2021年7月には残りの大型自動車の規制が施行された。2023年7月には、より厳しい試験要件と監視システムを用いるVI-b排出基準を導入する予定である。一部の情報筋によると、
中国ではゼロエミッションの新エネルギー商用車の販売を義務付ける新しい規制が策定されている可能性があり、この政策はおそらく乗用車の新しい指令と同じものになると予想されている。2020年後半に発表されたZEV中型・大型自動車の購入奨励策に加え、燃料電池自動車の研究開発と実証を支援する4年間のパイロットプログラムも発表された。2021年には、北京、天津、河北省、上海、広東省が最初の実証都市として承認された。
交通部による第14次グリーン交通計画の発表では、2025年までに全国の都市公共交通(乗用車とバスを含む)の72%、物流網の20%を新エネルギー車(NEV)が占めるという挑戦目標が掲げられている。
上海、寧夏、広東の地域政策では、2025年までにそれぞれすべての新型バスの96%、45%、100%をNEVにするという目標が設定されている。
欧州連合(EU)
欧州グリーンディールの一環として、2022年第4四半期に大型自動車のCO2排出量性能基準の見直しが行われる予定である。現在、この規制では、
中型および大型トラックの規制対象分野のCO2排出量を、2019〜2020年比で2025年までに15%、2030年までに平均30%削減することが求められている。今回の規制改正案では、その対象を他の車両カテゴリー(バスなど)にも拡大し、2035年と2040年の目標も盛り込まれている。
クリーン車両指令は、2021年8月までに国内法に移行されることになっていた。この指令は、大型自動車の「クリーン車両」[15]公共調達に関する国内目標を設定している。2022年2月、欧州議会はユーロビニエット指令(重量貨物車に対する道路利用課金)を改正する指令案を承認した。この改正により、
大型ZEVの運行者は、通行料の大幅な割引を受け、時間ベースの通行料ではなく、距離ベースの通行料となる(ほとんどの場合において)。オランダのようにゼロエミッションの大型自動車市場をリードしているEU加盟国は、トラック、公共バス、ゼロエミッションゾーンについて挑戦的な目標を設定している[16] 。この移行において企業を支援するために、
政府は大・中・小企業を対象に様々な補助金(2022年5月から)を提供するゼロエミッショントラック購入助成(AanZET)を発表している。その他、フィンランドでは、大型自動車の目標値を宣言したほか、
2021年に大型ZEVの購入補助金(2022年開始)を提供する法律を起草するイニシアチブが開始された。
スウェーデンでは、年間1億2,000万クローネ(1,390万米ドル)の予算で(2023年まで)、電気バスや代替燃料大型自動車を購入する公共交通機関や企業、自治体、適格な企業に補助金を支給している。
[15]クリーンな大型自動車は、代替燃料(水素、バッテリー電気、プラグインハイブリッド、天然ガス(圧縮天然ガス、液化天然ガス、バイオメタン)、液体バイオ燃料、合成・パラフィン系燃料、液化石油ガスを使用するバス、トラックと定義されている。
[16]2021年7月時点で多くの都市(主としてヨーロッパ)は、ゼロエミッションゾーンの施行やそうする計画を発表している。
オーストリアの2021年モビリティマスタープランでは、18トン未満の従来型の中型・大型自動車の販売を2030年までに、18トン以上のものは2035年までに終了することになっている。
2021年にモビリティの電化を支援するために、合計4,600万ユーロ(5,400万米ドル)が用意され、その中には対象となる商用大型ZEVの購入に6万ユーロ(70,980米ドル)、バスには最大13万ユーロ(153,790米ドル)が提供された。スペインは、
大型道路交通の脱炭素化を促進するために4億ユーロ(473百万米ドル)を発動し、最大19万ユーロ(224,770米ドル)のHDVの購入補助金を提供している(補助金レベルは車両クラスと受益者タイプによって異なる)。
インド
国営のConvergence Energy Services Limitedは、「Grand Challenge Initiative」の一環として、
5,500台以上の電気バスの調達を目指している。このイニシアティブはインド国内の5つの主要都市で開始され、9都市まで拡大することを目標としており、需要の集約、調達の促進、主要都市でのプロセスの標準化を目的としている。入札金額は350億〜550億インドルピー(4億7,500万〜7億4,400万米ドル)で、FAME IIスキームからの資金調達を予定しており、この種の入札としては世界最大級となる。バスの導入時期は未定。
ノルウェー
ノルウェーは
2030年までに、HDVの新車の100%、長距離バスの新車の75%、トラックの新車の50%をゼロエミッションとする目標を掲げている。これらの目標は、
補助金制度とHDVに課されるCO2 1トン当たり約200ユーロ(237米ドル)の燃料税によって支えられている。
英 国
2021年3月に「英国全国バス戦略」が発表され、脱炭素ロードマップの一環として、バスサービスにおける協調性の向上と他の移動手段との統合を図ることが示された。これは、2025年までに4,000台のゼロエミッションバスを実現するという公約(2020年11月)に加えてのことである。この公約を軌道に乗せるため、
2022年3月に2億英ポンド(2億8,600万米ドル)の資金調達が発表された。同国は、都市のバス全電化スキームによる5,000万ポンド(7,100万米ドル)に加え、
2021年に開始したZEBRAスキームによるゼロエミッションバスへの2億7,000万ポンド(386万米ドル)の投資を約束した。また、英国は2035年までに小型ガソリン・ディーゼルトラック、2040年までに大型トラック(26トン以上)の新車販売を段階的に廃止することを目標としている。政府は2022年3月、ゼロエミッションでないバス、コーチ、ミニバスの新車販売終了時期を現実的に設定することを目指し、関連協議を開始した。運輸省は、運送事業者を支援するため、パイロットプロジェクトを支援する2,000万英ポンド(2,900万米ドル)のファンドを発表した。対象となる車両には、プラグイン・トラック補助金として16,000〜25,000ポンド(22,857〜35,714米ドル)の購入補助金が提供される。最も人口の多いロンドンでは、2034年までにすべての新しい公共交通バスをゼロエミッションにすると政府が発表している。
米 国
カリフォルニア州の先進クリーントラック規制は、ZEVの最低販売目標を義務付けている。2021 年には、ニューヨーク、ワシントン、オレゴン、ニュージャージー、マサチューセッツの各州が追随した。2021年4月には、これらの州政府のうち数州が、2045 年またはそれ以前に中大型車の新車販売において 100%ZEVを実現するための連邦基準およびプログラムを設定するよう要請を促した。最近発表されたカリフォルニア州の構想では、大型トラックの電動化支援を含む、
カリフォルニア州の ZEV イニシアチブに 61 億米ドルが計上されている。2021年12月、カリフォルニア大気資源委員会は、2024年から2031年のモデルイヤー(MY)のHDVの窒素酸化物(NOx)および粒子状物質の排出に関する基準、試験、コンプライアンスを更新する新しい規制を採択した。その直後、米国環境保護庁は、大型トラックの基準汚染物質(NOx)の新基準の制定(2027年モデルから)を開始し、2022年に最終化する計画を発表した。2022年3月に発表されたこの提案では、2045年までにNOx排出量を47〜61%削減するとしている。これに続いて、現行のGHG基準が更新され、早ければMY2030からZEVパワートレインが使用できるようになる予定である。その他の更新案としては、2027 年度の GHG 基準の強化(事業用車両17 とデイキャブ・トラクタ・トレーラートラック18 について 2016 年の基準より 1.5% 強化)、2028 年と 2029 年の GHG 基準強化、2023 年から 2028 年の先進車両クレジット乗数の改定(HDV の技術が予想より早く進んだため、ZEV に対するクレジットを少なくする)などが挙げられる。
米国連邦政府は、全米の数千台のスクールバスや輸送用バスの電化に向けて75億ドルの資金提供を発表した。さらに、Low or No Emissions Programの一環として、輸送用バスの近代化のために11億米ドルの助成金が用意された。このプログラムには、5 年間で合計 55 億米ドルが割り当てられ、その一部は ZEV に充当される予定である。
様々な電気トラック購入補助金
特定地域におけるZEV大型貨物車の購入補助金と標準的な価格(2021年)

注: 本図における大型貨物車は、米国・カナダではクラス8、欧州諸国ではN3に分類される車両を指す。中国については、ICCT(2021)で定義された大型トラクタトレーラが相当すると仮定している。中国、オランダ以外の地域は、ICCT(2022)の典型的な購入価格を推定。中国の補助金と代表的な小売価格はICCT(2021)を基に算出。中国は FCEV への補助金を一旦停止し、新たなインセンティブ策を検討中。
出典: ICCT (2022)に基づく IEA の分析。ICCT(2021) スウェーデン、ポーランド、イタリア、フランス、スペイン、オランダ、ニューヨーク、ケベック、カリフォルニア、ブリティッシュコロンビア、オーストリア、イギリス。