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★道路貨物輸送分野における脱炭素化の分析(IEA(国際エネルギー機関)の自動車用先進燃料連携プログラム経由で入手した雑誌「Advances in Applied Energy」の「海運、航空及び道路運送分野に適した低炭素燃料に関する分析」から道路運送分野に関係する抄訳)

◆◆はじめに◆◆

 運輸分野では、船舶、航空機及びトラックは脱炭素化が難しい交通モードであるといわれており、どのような方策で脱炭素化を行うかについて種々の研究が行われております。
 LEVOが政府指定機関として参加しているIEA(国際エネルギー機関)の自動車用先進燃料連携プログラム経由で入手した「Advances in Applied Energy」という雑誌に「海運、航空及び道路貨物輸送分野に適した低炭素燃料に関する分析」に関する論文が掲載されております。今回は、この論文に記載されている道路貨物輸送分野における脱炭素化の分析について紹介します。
 
 出典:Decarbonising ships, planes and trucks: An analysis of suitable low-carbon fuels for the maritime, aviation and haulage sectors | Elsevier Enhanced Reader


◆◆要 点◆◆

○道路輸送分野の化石燃料需要は非常に大きい
  • 運送業は世界の石油需要全体の約20%を占め、1日あたり1,700万バレルの石油を消費。このまま推移すれば2050年までに2,200万バレル/日に増加すると予測。したがって、物流の改善、高効率な輸送、及び低炭素な燃料への移行が非常に重要。
  • 「ラストワンマイル」の配送や都市部の物流に典型的に使用される軽量貨物車(LGV:light goods vehicle)が数の上では世界の貨物輸送市場を支配(約70%)している一方で、重量貨物車(HGV:heavy goods vehicle)は、一般的に年間走行距離が長いため、保有台数が少ないにもかかわらず、車両の活動量では大きなシェアを占める。HGVとMGV(中量貨物車:medium goods vehicle)は、年間走行距離が長く(100,000km/年以上)、走行距離当たりの排出量が多い(HGV:1,080gCO2/km、LGV:260gCO2 /km)ことから、2000年以降の道路貨物車両からの排出量の65%と33%をそれぞれ占めている。

○短距離トラック輸送の電動化は可能と推定
  • バッテリー電気自動車(BEV)は、必要となるバッテリーの重量増とスペース減によってトラックの貨物容量が大幅に減少し、さらにバッテリーの充電時間(〜10時間)は、長距離トラックの現在の許容給油時間をはるかに超えている。
  • 航続距離を、800km(現在のトラックのほぼフル走行に相当)とするとトラックにリチウムイオン電池を搭載する重量増加ペナルティによる積載量の減少(16%)は、輸送業者の許容限度を超える可能性が高い。航続距離500kmでは、積載量の減少は9%であり、これは運送会社の許容範囲かもしれない。短距離用途では航続距離や充電時間に対する懸念が少ないため、現在、短距離トラック輸送(400km未満)にBEVが使用されており、都市物流や専属車両向けで初期の商業展開段階に入っている。
  • 将来的にバッテリーのエネルギーとコストが改善されれば(将来、バッテリーの比エネルギーが3倍になると予想)では,スイスとフィンランドの事例では輸送トンキロの71%と35%が電動化可能と推定。

○電気モーターは内燃機関に比べてはるかに効率が良いため、自動車の電動化は望ましい
  • 大半の代替燃料(エネルギー)は、現在の化石燃料の価格と競争するのは難しいことが明らか。よって代替燃料を内燃機関に利用する場合、運行コストの増加が懸念。一方で、電気モーターを使用するバッテリー式と燃料電池式のHGVの場合、電気モーターの効率が高いため、代替燃料(エネルギー)が軽油よりも高価であっても運行コストを削減できる可能性がある。
  • ただし、代替燃料車のシステムコスト全体を化石燃料の同等品と比較評価するため、総所有コスト分析が必要。また、特に水素、バッテリー、e-fuelなどの新技術の燃料コストは、将来的にまだ大きな不確実性が残る。

○代替燃料(エネルギー)自動車のコストはまだ高い
  • IEA(国際エネルギー機関)は、従来のHGVの軽油ディーゼル車と比較して、HGVのCNG車のコストは約22,000ドル(約250万円)高く、HGV のLNG車は40,000ドル(約460万円)高くなると見積もっている。
  • HGV燃料電池車は標準的なHGVの軽油ディーゼル車より約 37 万ドル(約4,300万円)高いが、燃料電池技術の改善が見られれば、この差は 3 万ドル(約350万円)から 11 万ドル(1,300万円)に縮まると予測。
  • 燃料電池のコストに関する現在の見積もりは、170ユーロ/kW から 250ユーロ/kW の範囲であるが、次世代技術による大量生産によって、50ユーロ/kWから70ユーロ/kWに削減できる可能性。
  • バッテリーのエネルギー貯蔵コストは、気体または液体燃料の貯蔵コストよりかなり高く、多くの重量車用途では法外に高くなるだろう(軽油比で600〜7,900倍)。しかし、バッテリーが適用可能な用途では、効率の向上によるランニングコストの削減が十分なインセンティブとなる可能性。

○代替燃料(エネルギー)のライフサイクル温室効果ガス(GHG)排出量
  • 化石燃料の CNG と LNG は軽油よりもエネルギー当たりの排出係数(gCO2e /MJ)は低いが、天然ガス車の走行効率が低いため、ライフサイクルGHG 排出量はCNG では走行距離ベースでわずかに減少するだけで、LNG では5%増加。
  • バイオ燃料の温室効果ガス(GHG)排出量は低いが、その使用にあたっては以下の点に留意する必要がある。
  1. 人工肥料を用いると排出量が増加
  2. 商業規模で油糧作物を栽培しHVO燃料を製造した場合、土地利用の変化(食料生産との競合、自然生息地変化など)により排出量が大幅に高くなる可能性がある。代替燃料を検討する場合、燃料を生産するために必要な土地面積の考慮が重要な点
  3. 廃食用油の場合は持続可能であるが、資源量が少ない。専用のエネルギー作物の栽培には、持続可能性の観点からは耕作限界的な土地で栽培された廃棄物、残滓、原料を利用することが望ましい。
  • e-fuelのGHG排出量は、原料となる水素の製造時に用いる電力の炭素排出量が支配的。したがって、走行距離当たりの炭素強度がディーゼルよりも高くなる可能性がある(e-fuel製造に炭素強度が非常に低い電力を使用する場合を除く)。
  • 合成燃料製造のための原料となるCO2に関しても以下の留意点がある。
  1. 発電所などからCO 2回収は、直接大気回収技術(DAC)よりもはるかに費用対効果が大きいため、化石燃料が使い続けられる可能性がある。このため、化石CO2資源の利用はDACや生物起源のCO2利用までの短中期的なものに許容されるかもしれない。
  2. 大気中に放出されるはずの廃棄CO2を利用する場合、排出削減量が運輸分野と電力分野で二重にカウントされないよう方法論的な注意が必要
  3. ただし、大気由来(大気中の炭素の直接捕捉)、あるいは生物由来 (バイオガスをバイオメタンに精製した場合や蒸留所から排出されるCO 2 など)の場合、燃料の燃焼をカーボンニュートラルとして扱うことが一般的


○道路貨物輸送分野における脱炭素化(まとめ)
(1) 電動化
  • バッテリーはエネルギー密度が低いため、船舶や航空分野では使用できないが、貨物輸送分野は、完全電動化に対する参入障壁が最も低い。つまり、代替燃料は化石燃料とのコスト競争にさらされるが、燃料電池やバッテリー電気パワートレイン(モーター)の効率が高いため運転コストの上昇抑制が期待でき、高価な燃料を使用することが可能である。
  • 世界の道路貨物輸送の大部分(70%)が電動化可能な LGVで構成されているという事実から、脱炭素化において電動車による輸送は大きな役割を果たす可能性がある。ERS(電化道路)システムは、一般的な貨物輸送ルートで十分に整備された道路を走行するMGVやHGVに対して脱炭素化への道筋を提供する可能性がある。
  • このレビューで現在のバッテリー技術のエネルギー密度と比エネルギーを分析したところ、道路貨物の電動化は技術的に可能であるが、航続距離800kmのHGVの場合、積載量は16%、航続距離500kmでは9%減少することが示された。

(2) 代替燃料
◆バイオ燃料
  • バイオ燃料システムのGHG排出量は、原料の選択に大きく依存→農業用スラリーなどの廃棄物や残渣は、特別に栽培されたエネルギー作物よりも排出量が少ない。廃棄物や残渣は、エネルギー作物よりも土地占有率が低いが、これらの原料の潜在的な資源量は限定的
  • バイオメタンは、現在のバッテリー技術よりもはるかに高いエネルギー密度を持ち、燃料貯蔵システムの重量増による積載量の減少はわずか3%で、ディーゼルと同等の航続距離を実現することができる。バイオマスの嫌気性消化及びガス化は、バイオメタンを輸送用燃料として利用するための有望な方法であり、発電からガス化までの過程で生産される合成メタンよりも、二酸化炭素の排出量が少なく、生産コストも低く抑えることができる。バイオメタンを輸送用燃料として利用する大きな利点は、メタンで走行可能なHGVが既に成熟した技術であることである。
  • バイオメタンが運送会社にとって魅力的な代替燃料となるためには、これらの代替燃料を広く普及させるための適切に配置された燃料補給ステーションのネットワークが不可欠。
◆e-fuel
  • e-fuelシステムのGHG排出量は、電力消費量に大きく依存→e-fuelの生産に炭素強度の高い系統電力を使用した場合、発電所からの GHG 排出量は、従来の化石燃料よりも高くなる可能性。e-fuelの持続可能性を確保するためには、低炭素電力が必要。
  • e-fuelシステムは、1ヘクタールあたりのエネルギー収量が非常に高く、土地の効率的な利用が可能。
  • 「ドロップイン」燃料は、既存の自動車のパワートレインを利用することができるという利点があるが、非ドロップイン燃料は、新しいパワートレインを必要とするため、自動車のコストアップにつながる。
◆水素、燃料電池
  • 水素燃料電池HGVを使用することは、貨物輸送の脱炭素化のためのもう一つの有望な道筋である。燃料電池での水素の使用は、走行時のCO2排出がなく、WTTにおけるGHG排出は電解工程で使用される電力の炭素強度に関連するものである。
  • そのため、中期的には水素製造時の炭素排出量を減らすための運用管理が重要である。
  • 一方、長期的には電力網の脱炭素化により、WTWにおけるGHG排出量をほぼゼロにすることが可能である。BEVの場合と同様に、燃料電池自動車の効率向上により、運行コストの削減が可能となる。分析によれば、水素が1MWhあたり110ユーロ*で利用できるようになれば、運行コストを28%削減できる。
    *軽油1リットル当たりのエネルギーに換算すると、約158円/ リットルとなる。 (軽油:38.04MJ/リットル、ユーロ:135円/ユーロ で換算)。
  •  水素が運送会社にとって魅力的な代替燃料となるためには、これらの代替燃料を広く普及させるための適切に配置された燃料補給ステーションのネットワークが不可欠である。利害関係者は、信頼できる供給インフラが保証されるまでは、代替燃料に切り替える可能性は極めて低い。重量車による貨物輸送の性質上、燃料補給インフラ配置の必要性は、旅客輸送よりも低い。主要な貨物輸送ルート沿いに燃料補給ステーションを設置すれば、輸送分野における代替燃料の大幅導入が可能になる。EUは、CNGの給油ステーションを約150km以内に設置し、CNG車600台に対して給油ステーションを1つ設置することを義務付けている。
(3) その他
 バッテリー式や燃料電池式のパワートレイン(モーター)は、内燃機関よりもエネルギー効率が高い。例えば、バッテリー電気自動車を充電するために電気を直接供給する場合、WTW のエネルギー効率は 73% になるが、燃料電池自動車用の水素を製造するために電気を使用すると、エネルギー効率は 22% になり、電力を用いて製造した合成燃料のFT軽油では、全エネルギー効率は 13% になると推定。電気分解と燃料電池の技術が進歩すると考えられるが、バッテリー電気、燃料電池、内燃機関の間のシステム効率のレベルが逆転する見込みはない。このような総合効率の差から、可能な限り水素を直接利用することが望ましく、内燃機関技術は航空分野など、他に選択肢がない場合にのみ使用される。
 Euro VI 排出ガス規制は、新車のトラックが電気自動車や燃料電池車に置き換えられ、中古車市場に流れていく中で、HVO燃料のような再生可能ディーゼル燃料を使用することで、排出ガスの削減が可能になり、地域の大気環境を悪化させない。特に、バッテリーや燃料電池の使用が制限されている発展途上国には有効な手段である。
 輸送用燃料の選択は、船舶や海運の分野と比べると、より地域に特化したものとなっている。天然ガスネットワークが整備され、持続可能なバイオマス資源が豊富にある国では、既存のインフラを活用するために、輸送用燃料としてバイオメタンを選択することができる天然ガス網が整備されていない国では、水素などの代替燃料がより魅力的である


 要点を含めた詳細は、「道路輸送分野における脱炭素化の分析」に関連する部分を抜粋した翻訳をご覧ください。
一般財団法人環境優良車普及機構 (levo.or.jp)

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