■海外情報
★インドにおける自動車用先進燃料の動向
《AMF-TCP(自動車用先進燃料技術連携プログラム)2019年間報告書より》

出典:
https://www.iea-amf.org/(英語ページ)
◆◆インド◆◆
自動車用先進燃料普及の背景及び政策
インドの人口は世界の約18%を占めており、世界の一次エネルギーの6%を使用しています。2040年までにそれが11%に増加すると予測されています。インドは、中国、米国に続き世界第三位の石油消費国ですが、人口当たりのエネルギー消費量は、全世界平均の1.79 toe(ton oil equivalent:トン石油相当量)に対し0.6toeで、その三分の一であり最も低いレベルとなっています。しかし、インドのエネルギー消費の伸びは、2017年から2040年の間に主要経済国の中で最も高いと予測されています。力強い経済成長及び若者の割合が高い人口構成が、インドの一次エネルギー消費の大幅増加の原動力になっています。2040年までに12億toe、つまり156%の拡大が見込まれており[73]インドは圧倒的に大きなエネルギー需要源となります。
全家庭でクリーンエネルギーを普遍的に使えるように、Narendra Modi首相によって、BPL(below-poverty-line:貧困ライン以下 )世帯の女性のために、LPG(液化石油ガス)を5,000万世帯に接続する計画で2016年5月1日にPradhan Mantri Ujjawala Yojana(PMUY)プログラムが立ち上げられました。
この計画には8,000億ルピー(110億米ドル)の予算が割り当てられました。2018年、インドユニオンバジェットは2020年3月までに8,000万世帯に範囲を拡大し、目標をその7か月前に達成しました。このスキームにより、2019年のLPG消費量は2014年と比較して56%増加しました。
さらにインドは、一次エネルギーミックスにおけるガスのシェアを現在の6%から15%に増やすことを目標として、ガスベースの経済を先導しています。これを達成するために、国内のガス生産の強化、パイプライン、都市ガスの流通ネットワーク、再ガス化装置付き液化天然ガス(R-LNG)ターミナルを含むガスインフラを迅速に開発し、また誰でも利用できる環境を提供することを重点分野としています。
これまでインドは必要とされる石油製品の約83%を輸入してきました。インド政府は石油とガスの輸入依存度を下げるため、国内生産の増加、バイオ燃料及び再生可能エネルギー効率基準の採用、精製プロセスの改善及び需要代替等の五つの戦略によるロードマップを策定しました。環境汚染の問題と並行して燃料調達のための輸入依存度に対する懸念の高まりにより、優れた環境メリットを持ち化石燃料と経済的に競争力のある代替燃料の必要性が高まっています。これにより、インドのエネルギー利用においてバイオ燃料が戦略的役割を持つことにつながるでしょう。
2014年からインド政府は、エタノール混合ガソリン(EBP)プログラム、ディーゼルでのバイオディーゼル混合、SATAT(受容可能かつ持続可能な輸送手段に関する代替プロジェクト:圧縮バイオガス(CBG))などの複数の構造化プログラムを通じて、国内においてバイオ燃料促進のための関与を行ってきました。政府は2018年6月にバイオ燃料に関する新しい国家政策-2018に関する通達を出しました。これにより国のバイオ燃料プログラムが後押しされることが期待されています。この政策では、2030年までにガソリンにエタノールを20%混合すること、及び軽油にバイオディーゼルを5%混合することを想定しています。
この政策の主な特徴は、バイオ燃料を「基本的なバイオ燃料」(例:第1世代エタノールとバイオディーゼル)と「高度なバイオ燃料」(例:第2世代エタノール、バイオCNG、ドロップイン燃料(訳者注:従来の燃料系統にそのまま混合可能な燃料))に分類して範囲を拡大することです。エタノール生産の原料には、小麦、破砕米、腐ったジャガイモなどの損傷食用穀物が含まれます。さらに、高度なバイオ燃料の研究開発と原料生産が推進されています。
73:
https://www.bp.com/content/dam/bp/business-sites/en/global/corporate/pdfs/energy-economics/energy-outlook/bp-energy-outlook-2019-country-insight-india.pdf(英語ページ)
自動車用先進燃料の動向(統計情報)
インドの一次エネルギーミックスの主体は化石燃料であり、近い将来も変わらないでしょう。現在、石油とガスはインドのエネルギー消費量の約35%を占めています。2040年までに31%に低下すると予想されています。しかし、石油の絶対消費量は2倍になり、ガスの場合は既存のレベルから3倍になると予想されています[74]。運輸部門全体のエネルギー需要は、最終用途分野において主要部門全体で最も高くなっています。このためインド政府は、運輸部門における先進的自動車用燃料の使用を促進・奨励してきました。この取り組みにおいて、化石燃料に比べて持続可能で排出ガスの少ないバイオ燃料をガソリン、ディーゼル、天然ガスに対して混合することが推進されています。
74:
https://www.bp.com/content/dam/bp/business-sites/en/global/corporate/pdfs/energy-economics/energy-outlook/bp-energy-outlook-2019-country-insight-india.pdf(英語ページ)
◇エタノール混合ガソリン(EBP)プログラム
エタノール混合ガソリン(EBP)プログラムでは、石油販売会社(OMC)は、入手可能な場合はエタノールを10%混合したガソリン(E10)を販売しています。2013年から14年までエタノールの供給はなく、販売できませんでした。エタノールの供給を増やすために、政府はエタノールの価格を管理することを決定しました。エタノールの州間移動に対する制限を緩和するなど、他の多くの措置と組み合わせました。また、エタノール生産のため砂糖、サトウキビ、損傷食用穀物などより多くの原料を許可しました。州固有の問題に対処し、魅力的なエタノール価格と生産システムの中での糖液の利用により、エタノール供給を2012〜13エタノール供給年(12月から翌年11月)の1億5,400万リットルから2018〜19年には約18.6億リットルに改善しました。これによりガソリンに5%ブレンドすることができました。
表1 EBPプログラムにおけるエタノール調達量の傾向

◇第2世代エタノールプログラム
インド政府は、「Pradhan Mantri JI-VAN Yovana」プログラムを承認しました。これは、農業残渣、森林残渣などをベースとした第2世代バイオエタノールプロジェクトに対し、2018-19年から2023-24年の間に約3億米ドルの財政支援を12の商業プロジェクト及び10の実証プロジェクトを対象に行うものです。12箇所のバイオエタノール精製所の推定投資額は15億5,000万米ドルです。これらのバイオエタノール精製所は、年間約3億から3億5,000万リットルのエタノールを生産するため、EBPプログラムに大きく貢献します。技術のライセンス化が完了し、初期の第2世代バイオエタノールプラントの建設工事がいくつか開始されました。残りのプロジェクトでは、詳細な事業化調査報告書の準備と計画作業が進行中です。
◇バイオディーゼル
2017年6月政府は、インド規格局によって指定された混合率上限基準に従って、高速ディーゼルエンジンに混合するためのバイオディーゼル(B-100)をすべての消費者に直接販売することを許可しました。バイオディーゼルの供給強化に向け、使用済み食用油(UCO)から生産される潜在的なバイオディーゼルの供給拡大のため、石油天然ガス省(MoPNG)の指導の下、公共部門の石油マーケティング会社は、2019年8月10日の世界バイオ燃料デーの機会に、UCOから製造されたバイオディーゼルの調達に関心があることを表明(EOI)しました。この表明では、UCOから製造したバイオディーゼルを調達する際に、バイオディーゼルプラントを設置する起業家が報酬を受け取ること、公共部門はOMCから生産物を完全に引き取ることの保証が規定されています。このしくみは国内200都市で開始されました。
◇圧縮バイオガス(CBG)
政府は、いわゆる圧縮バイオ天然ガスとして知られるCBGの利用を推進しています。これは、精製して純度を上げ圧縮した天然ガスであり、種々の廃棄物やバイオマス資源から嫌気性分解プロセスを経て製造されたものです。
石油・ガス公共部門は、2018年10月1日に受容可能かつ持続可能な輸送手段に関する代替プロジェクト(SATAT)イニシアチブを開始しました。このイニシアチブの下で、公共部門の石油及びガスマーケティング会社は、国内において2023年までに年間1,500万トンの推定生産量を持つ潜在的な起業家からCBGを調達するためにEOIへの参加を要請しました。
石油・ガス公共部門は、kgあたり46ルピーでCBGを調達しています。調達されたCBGは、運輸部門、産業部門、家庭用ガスで純粋または混合して使用されます。2019年11月の時点で、CBGの調達のため発効されたEOIに対応して、石油・ガス公共部門は全国に日量2,410トンのCBGプラントを設立するための453の基本合意書を発行しました。
実証研究
ハイテクノロジーセンター(CHT)、MoPNG傘下の公共部門石油販売会社のR&D部署、バイオテクノロジー部門(DBT)、科学産業研究評議会・インド石油研究所(CSIR-IIP)、Dehradun(インドの都市)は、関連するR&Dをサポートするプログラムに取り組んでいます。さまざまなスキームを通じて、先進的なバイオ燃料開発に重点を置いて、国内のエネルギーバイオサイエンスに取り組んでいます。ムンバイに本拠を置くDBT-ICTセンターは、リグノセルロース技術を開発しました。これはデモンストレーション規模で実証され、現在、商業プラントの設立に活用されています。
Indian Oil Corporation Ltd. R&Dセンター(IOC R&D)は、マルチフィードガス化の分野で研究作業を行っており、さまざまな分析機能、フィード特性評価機能を備えたマルチフィード流動床ガス化パイロットプラント(毎時1〜2 kg製造 )を設置しています。反応性と灰分量に応じて原料を分離すると同時に、利用するガス化装置の設計最適を行うという新しいコンセプトが開発されました。2022年までに1日2トンの合成ガス生産用ガス化実証パイロットプラントが第2R&Dキャンパスに設置され、さらなるスケールアップのためのデータ取得や検証が行われています。
IOC R&Dは、18%の水素をCNGに直接混合した水素含有CNG(HCNG)を製造するためのコンパクトな一段階水蒸気メタン改質プロセスも開発しました。これは、水素と天然ガスを高圧下で物理的にブレンドしてHCNGを生産する方法と比較して、より経済的で技術的に魅力あるものです。デリーのRajghatバス車庫に、コンパクトな改質プロセスのHCNGデモンストレーションユニットが4台設置され、50台のCNGバスにHCNG燃料を供給し、排出ガスと効率の改善を検証するための路上試験が実施されています。試験は2020年7月までに完了する予定です。さらに、高性能バクテリアを用い、食品廃棄物をメタン含有量が高い(80%超)バイオガスに変換するための、2段階バイオメタン化プロセスを開発しました。IOCのバイオメタン化技術を使い、台所から出る有機廃棄物を利用したバイオメタン化プラント5箇所がファリダバードに設立されました。これは、企業の社会的責任の観点からファリダバードの市営企業と協力して設立されたものです。CO2回収と付加価値製品への変換のために、二酸化炭素を酢酸に変換する嫌気性ガス発酵技術(米国の特許取得済み)と、好気性発酵技術(インド石油R&Dの特許取得済み)の2つの技術を統合することにより、第3世代のバイオ燃料技術が開発されました。これは、酢酸から付加価値の高いオメガ3-脂肪酸バイオディーゼルを作り出すものです。このバリューチェーンにより、プロセス全体が経済的に実現可能になります。IOC R&Dセンターで世界初のCO2生産量10kg /日のパイロットプラントの研究が進行中です。パイロット規模で実証された後、適切な製油所で第2世代エタノールの商業プラントが計画される予定です。このプラントでは、製油所からの水素とモノエチルグリコール・第2世代エタノール発酵ユニットから純粋CO2が入手可能です。IOCLはまた、パーニーパット製油所のガスからの圧力スイング吸収によるガス発酵技術を使い、1日あたり約128kLのエタノールを生産しています。
航空分野では、2018年8月27日にSpiceジェットにより25%のバイオジェット燃料を用いた最初のフライトがデリーとデーランダムの間で運行されました。そのフライトで使われたバイオジェット燃料はデーランダムのインド石油協会のCSIR研究所で開発されたもので、ジャトロファの種を原料としています。さらにインドにおけるバイオジェット燃料生産のため、バイオジェット燃料の現在の需要調査、製造コスト及び将来必要となる事項の検討、国際基準に沿った仕様や基準の構築など、原料の利用可能性調査が行われました。
現在、第2世代バイオエタノール精製所における効果的な酵素やコスト削減に向けた開発、リグニンの価値向上など付加価値のある生産物の開発、バイオマスからの圧縮バイオガス、食品廃棄物、固体都市ごみ及び産業排気ガスからのコスト効果のあるバイオ燃料、バイオジェット燃料生産の商業化などの開発が行われています。
今後の動向
先進的なものを含めバイオ燃料を「環境にやさしい」燃料としてインド政府は推進しており、インドにおけるバイオ燃料の見通しは、引き続き有望です。
EBPプログラムにおいて、PSU OMCによるエタノール調達量は前年度と比較して大幅に増加しています。エタノールの調達量は2018-19エタノール供給年で18億8,600万リットルに達し、混合レベル5%を達成しました。これは、単一の年度で史上最高となりました。ガソリンの需要が高まるにつれ、エタノールの需要も年々増加し、10%の混合、つまり年間約40億リットルが必要になると予測されています。さらに、最初の第2世代バイオエタノールプラントの建設工事が数か所で開始され、残りのプロジェクトの詳細な実用化調査レポートの準備と計画作業が進行中であるため、2021年以降第2世代エタノールはEBPプログラムの下でエタノール供給を補うことが期待されています。最近、インド政府は、全燃料消費量に占めるバイオ燃料の割合を増やすため、PSU・OMCに対し、E 100(純粋エタノール)、M 15(15%メタノールとガソリンの混合)燃料のパイロットプロジェクトの実行を義務付けました。
石油及びガスPSUにより開始されたSATATイニシアチブは、インドの化石燃料への依存を減らし、一次エネルギー消費におけるガスのシェアを増やすのに大いに役立つものです。企業はすでに関心のある起業家に基本合意書を展開し始めています。このイニシアチブは、これら企業の広大な小売ネットワークと今後のCBGプロジェクトとを統合するのに役立ち、国の50%以上がガス輸入に取って代わる可能性があります。
上記のイニシアチブは、すでにインドのバイオ燃料産業に影響を与え始めています。輸送部門での展開、投資、プロジェクトの確立、研究開発の強化などにより、先進的なバイオ燃料は、今後数年間大きく進展することが期待されています。
補足情報
ウェブサイト:
www.ppac.org.in for data on fossil fuels production, consumption, Import & Export(英語ページ)
ウェブサイト:
www.mnre.gov.in for data on R&D projects. (英語ページ)
ウェブサイト:
www.siamindia.com for data on automotive industry. (英語ページ)
ウェブサイト:
www.dbtindia.nic.in(英語ページ)