低炭素からつくった電気により走行するすべての電気自動車に加え、再生可能燃料は自動車交通、特に短中期的には運輸部門のすべてのモードの脱炭素化において重要な貢献をすることができる
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自動車交通部門のGHG排出量を2050年までにゼロにするには、一つの対策だけでは達成できない。
輸送需要の削減、自動車の高効率化及びバイオ燃料、電気燃料(e-fuel)、再生可能電力、再生可能水素などの再生可能エネルギーの追加など、さまざまな施策を展開する国が、挑戦的な脱炭素化目標を達成する機会に恵まれる。
今回の評価で、バイオ燃料が脱炭素化に最も貢献するのは、現在、2030年、2040年、あるいは国によっては2050年まであることがわかった。ドイツと米国では、2030年以降は効率の向上が主な要因となり、フィンランドとスウェーデンでは、電気自動車の使用が主流となる2040年頃まではバイオ燃料の影響が最も大きくなる。ブラジルでは、2050年までバイオ燃料の貢献が最大となる。
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気候変動の観点から、社会の脱炭素化が急務となっている。自動車交通部門は、交通需要の増加に伴い、GHG排出量も増加しているため、特に課題となっている。再生可能エネルギーを利用した電気自動車だけでは、この問題を解決することはできない。また、GHG排出量の削減目標と予想される実際の排出量とのギャップを埋めるために、再生可能な自動車交通用燃料が必要となっている。
専門家チームは、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、米国、ブラジルなどを含む、多くの国の運輸部門の2030年及び2050年までの予測を評価した。この作業は、国際エネルギー機関(IEA)の2つの技術協力プログラム(IEA Bioenergy TCPおよびAdvanced Motor Fuels TCP)が、欧州委員会エネルギー総局の支援を受けて共同で実施した。この分析は、現在の各国の政策、自動車保有台数の予測、および再生可能輸送用燃料の利用可能性に基づいている。
評価の目的は、自動車交通部門の脱炭素化において再生可能燃料が果たす役割を定量化し、各国の違いや、脱炭素化のための選択肢、成功した政策事例などを政策立案者に提供することである。
このプロジェクトの中心は、5か国の自動車交通部門の進展の可能性を評価することである。走行データは各国の専門家から提供され、モデリングの前提条件や計算結果については、オンラインや専門家ワークショップで議論した。
フィンランド、スウェーデン、ドイツ、米国、ブラジルの自動車交通部門は、VTTが所有する“ALIISA”でモデル化された。このモデルには、5つの車両カテゴリー、6つの動力システム、12の燃料オプションが含まれている。各国の入力データには、将来の各車両カテゴリーの総販売台数、販売台数に占める利用可能なパワートレイン/燃料オプションの配分、エネルギー効率の改善、年間走行距離などの仮定が含まれており、これらはカテゴリー、車齢クラス、パワートレイン/燃料の組み合わせによって異なる。そして、2050年までの各年の走行車両構成、走行車両の総エネルギー需要、その結果としてのTank-to-Wheel(TTW)CO2排出量を計算する。このモデルでは、再生可能電力によるCO2排出量をゼロと仮定している。これらの計算は、「現在の政策シナリオ」「MORE EVシナリオ」「MAX BIOシナリオ」「E-FUELSシナリオ」の4つの異なるシナリオに対して行われた。
このプロジェクトのその他の部分では、運輸部門のクリーン化を達成するための7カ国の主要戦略、再生可能燃料の生産経路とその技術準備レベル、GHG排出量、コスト、原料の利用可能性、エンジンにおける燃料適合性、実施する上での障壁、政策提言、ベストプラクティスの政策例などをまとめた。
輸送用再生可能燃料の基本的理解
● バイオ燃料やe-fuelなどの輸送用再生可能燃料は、成分にもよるが、低混合率で使用したり、最大100%の代替が可能なドロップイン燃料として使用し、専用または改造エンジン/車両用の燃料として使用することができる。しかし、代替燃料専用車はまだ世界的に広く導入されていない。
● 2060年の輸送用燃料需要の最大30%を代替するのに十分な持続可能な原料をバイオ燃料生産に利用することができる。
● ライフサイクルの観点から評価すると、バイオ燃料は化石燃料よりも大幅にGHG排出量を削減できる。現在、カリフォルニア州で提供されているバイオ燃料の平均的な炭素強度は、15?65g(CO2換算)/MJである(化石燃料である軽油とガソリンの炭素強度は95g)。将来的には、バイオ燃料の炭素強度はさらに低下すると予想され、廃棄物処理によるGHG排出回避のクレジットを取得したり、CCSと組み合わせたりすることで、正味でマイナスになることもある。
● 先進バイオ燃料のコストは生産経路によって異なり、ほとんどの場合、ガソリン換算で1リットル当たり0.35?1.58ユーロと、現在の化石燃料換算のコストを大幅に上回っている。先進バイオ燃料技術は現在、開発の初期段階にあるため、さらなるコスト削減の可能性が大きい。
● 評価された国(フィンランド、スウェーデン、ドイツ、米国、ブラジル)の一人当たりの車両数、一人当たりの輸送量、地域ごとの輸送量などの自動車交通部門の指標は大きく異なる。
● 現在の政策シナリオでは、バイオ燃料はすでにTTW CO2排出量の削減に最大限貢献しており、国によるが、2030年、2040年、さらには2050年まで貢献は続く。電気自動車は2040年までにはバイオ燃料に追いつく。
● 電気自動車の導入率がたとえ高く推移しても、短中期的にはバイオ燃料が脱炭素化に最も貢献し続ける。
● 地域における利用可能な燃料の品質にもよるが、バイオ燃料、特にドロップインバイオ燃料を最大限に活用することで、2050年までにTTW CO2排出量をほぼゼロに減らすことができる。
● e-fuelの使用により、他の手段によって達成された排出削減と挑戦的目標との間のギャップを埋めることができる。ただし、化石燃料を完全に置き換えるために必要なe-fuelの量は、かなりの量の非化石電力と捕捉・回収したCO2量を必要とし、多くの国で利用できる可能性は低い。
● すでに確立している化石燃料システムとの競合
● 政策推進要因の変動、長期的に安定した政策の欠如
● 一連の政策措置の不完全性または不均衡
● 技術的レベル、可能性、持続可能性に対する一般の認識
● 代替燃料と代替燃料車のためのインフラ構築の必要性
● 成功した政策例
● バイオ燃料混合の義務化
● GHG削減能力に応じたインセンティブ
● 厳格で一貫性のある持続可能性に関するガイドライン
● 先進バイオ燃料には、個別義務、RD&D支援、リスク保証などの具体的支援が必要
●バイオ燃料の炭素強度に着目する必要あり
●石油メジャーを巻き込み、既存の燃料サプライチェーンや流通ネットワークを活用して、バイオ燃料をコスト効率の高い方法で市場に投入する。
●化石燃料の段階的な廃止を義務付ける。
●自動車メーカーに対し、再生可能燃料の使用によるGHG排出量の削減がCO2排出量の事業者目標にカウントすることができるようにする(その後、目標の強化が可能)。
運輸部門を脱炭素化する必要性
各国の基本戦略
挑戦目標とトレンド
いくつかの選ばれた国の運輸部門における進展状況の評価
既存の政策に基づいた脱炭素化
より多くの電気自動車の導入による効果
バイオ燃料を最大限に活用し、より良い脱炭素化を目指す
自動車交通分野を十分に脱炭素化するためのe-fuelsの利用
再生可能輸送用燃料の利用可能性
低炭素燃料技術及びそれらの開発状況
バイオ燃料製造のための持続可能なバイオエネルギー原料の実用性及びコスト
先進バイオ燃料経路におけるGHG排出量
新たなバイオ燃料生産とコスト削減の余地
既存エンジンに対する燃料の適合性
新しいバイオ燃料の生産や利用に関する政策の役割
再生可能燃料の広範な調達方法
広範な普及への障害
競争のためのよく整備された交通システム
政策推進要因の変化
一般の人の低い受容
政策手段の不備
インフラ整備の必要性
低炭素燃料導入に伴うリスク
先進輸送用燃料の普及拡大に向けた政策要件
政策ベストプラクティス
最終コメント
気候変動の観点から、社会の脱炭素化が急務となっている。運輸部門、その中でも特に自動車交通部門は、輸送需要が増加しておりGHG排出量も増加しているため、特に困難な状況にある。脱炭素化には、GHG排出量を削減し、自動車交通をよりクリーンにするためのすべての方策が含まれる。これには、バイオ燃料、電気燃料(e-fuel)、再生可能電力などの低(化石)炭素エネルギーキャリアも含まれる。再生可能な輸送用燃料は、GHG排出量削減目標と予想される排出量削減の間のギャップを埋めるために不可欠な役割を担っている。
専門家チームは、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、米国、ブラジルなどを含む、多くの国の運輸部門の2030年及び2050年までの予測を評価した。この作業は、国際エネルギー機関(IEA)の2つの技術協力プログラム(IEA Bioenergy TCPおよびAdvanced Motor Fuels TCP)が、欧州委員会のエネルギー総局の支援を受けて共同で実施した。この分析は、各国の脱炭素化に向けた重要な戦略、現在および将来の自動車保有台数、既存および新規の再生可能輸送燃料の利用可能性に基づいている。
評価の目的は、自動車交通部門の脱炭素化において再生可能燃料が果たす役割を定量化し、各国の違いや、脱炭素化のための選択肢、成功した政策事例などを政策立案者に提供することである。
ほとんどの国が、気候危機を緩和するためには挑戦的な行動が必要だと認識している。すべての部門からのGHG排出量を大幅に削減する必要があるが、中でも運輸部門は脱炭素化が最も難しい。対策は、「回避」・「シフト」・「改善」の原則に基づいて行うことになる。すなわち、過剰な輸送を回避し、炭素強度の低い輸送手段にシフトし、すべての輸送手段の炭素強度を改善することが必要である。バイオ燃料、e-fuel、電気自動車用のグリーン電力などの再生可能エネルギーの利用は、輸送の炭素強度を改善するための主要な手段の一つである。
その結果、多くの国が再生可能な輸送用燃料の使用義務付けまたは奨励する法律を制定した。EUは、再生可能エネルギー指令(RED)とそれを改定したRED-IIを導入し、すべてのEU加盟国に、2020年までに再生可能エネルギー源からの輸送エネルギー需要の10%、2030年までに14%をカバーすることを義務付けた。米国の再生可能燃料基準 (RFS)は、いくつかの燃料カテゴリーにわたりライフサイクルGHG排出削減しきい値に基づいて、再生可能燃料の量的要件を確立した。当初の法律の再生可能燃料の年間目標量は、2022年に年間360億ガロン(1,360億リットル)に達する。ブラジルでは、RenovaBioシステムにより、ブラジルの輸送システムの平均GHG強度が2017年と比較して2030年に約10%減少する。
フィンランド、ドイツ及びスウェーデン(これらの国はすべてEUメンバー)は、EUのREDで義務化された量より多い挑戦的なバイオ燃料目標を設定した。フィンランドは、自動車交通用燃料におけるバイオ燃料のシェアを2030年までに30%に増加する目標を設定した。ドイツは、運輸部門からのGHG排出量を2030年までに段階的に9,500万トンに削減することを目標としている。これは、1990年と比較して約42%に相当する。これを達成するための一つの対策は、燃料供給業者にGHGベースで燃料の販売をミックスで義務付ける割り当てシステムであり、 2020年以降、化石燃料のガソリン及び軽油と比較して年間6%のGHG削減を達成する。最後に、スウェーデンは、2010年と比較して2030年までに道路輸送部門からの排出量を少なくとも70%削減するという目標を掲げている。これを達成するための一つの対策は、燃料供給業者がGHG削減義務を負うというもので、販売するガソリン及び軽油の量にバイオ燃料を組み入れることでGHG排出量を削減する。2020年の削減義務は、ガソリンが4.2%、ディーゼルが21%である。削減義務は時間の経過とともに増加し、2030年には全体で40%の削減を目標としており、ガソリンが28%、ディーゼルが66%で構成されている。
米国では、連邦政府のRFSに加えて、カリフォルニア州が燃料のGHG強度に基づいて輸送燃料のGHG排出量削減を義務付ける制度を初めて導入した。低炭素燃料基準(LCFS)では、ガソリン、ディーゼル、およびそれらの代替燃料の炭素強度のベンチマークを毎年減少させるように設定している。LCFSは、2030年までに自動車交通用燃料グループの炭素強度を20%削減することを目標としている(2011年ベースライン比)。オレゴン州では、LCFSと同様のプログラムを実施し、自動車交通用燃料の炭素強度の削減を求めている。中西部のいくつかの州では、自動車交通用燃料のGHG排出量を削減するために、同様のクリーン燃料プログラムを検討している。
他の国々では、運輸部門の脱炭素化のために電気自動車に力を入れている。中国は、2030年までに全体の炭素強度を下げ、国全体の炭素排出量をピークにすることを約束している。運輸部門では、中国は主に電気自動車(いわゆる新エネルギー車)の導入に力を入れているが、E10の使用も推進している。日本は、運輸部門のGHG排出量をCO2当量で2013年度の225百万トンから2030年までに163百万トン(27%削減)にすることを約束している。次世代自動車の普及や、交通システムレベルでの対策などを行っている。
また、上記で言及したすべての国で自動車の燃費を徐々に向上させるための法律が施行されており、GHG排出量の削減に直結している。
これらの国の主要戦略の詳細については、全体報告書のパート1(「いくつかの国の主要戦略」)に記載されている。
運輸部門からの実際のGHG排出削減量を各国の挑戦目標あるいは世界の低炭素化シナリオと比較すると、現在のトレンドに基づく予測では挑戦目標はほとんど達成されないことがわかる。
IEAは「World Energy Outlook 2017」において、2100年までに将来の世界平均気温の上昇を2℃に抑える確率を50%とする「2℃シナリオ(2DS)」を導入している。2DSでは、2060年までにバイオ燃料の使用量が10倍に増加し、運輸部門で30 EJ(エクサジュール:1018ジュール)を供給するとしている。このシナリオでは、図2に示すように、輸送エネルギーの約30%をバイオ燃料が占め、電力の増加やエネルギー効率の向上分を補っている。このシナリオでは、短期的にはバイオ燃料の使用量が急速に増加し、運輸部門におけるバイオ燃料の貢献度は2030年までに3倍になっている。